寵愛の姫 Ⅲ【完】
「っっ、」
その、何も映さない茉莉の瞳に、ぞっとして、自分の背中が粟立つ。
言い知れぬ恐怖感に私は、その場に固まった。
「ーーーーねぇ、莉茉?」
こてん、と茉莉が首を横に傾ける。
「あんたは、狡いよ。」
「え?」
「だって、あの家から解放されるんだもん。」
ふっと、口角を上げ、儚い笑みを浮かべた茉莉に、私は目を見開く。
「………………っ、茉莉?」
ーーーーーそんな表情をした茉莉を、私は初めて見たかも知れない。