寵愛の姫 Ⅲ【完】


「っっ、」



その、何も映さない茉莉の瞳に、ぞっとして、自分の背中が粟立つ。





言い知れぬ恐怖感に私は、その場に固まった。



「ーーーーねぇ、莉茉?」



こてん、と茉莉が首を横に傾ける。



「あんたは、狡いよ。」


「え?」


「だって、あの家から解放されるんだもん。」




ふっと、口角を上げ、儚い笑みを浮かべた茉莉に、私は目を見開く。



「………………っ、茉莉?」



ーーーーーそんな表情をした茉莉を、私は初めて見たかも知れない。
< 372 / 469 >

この作品をシェア

pagetop