寵愛の姫 Ⅲ【完】
「………、すっかり、忘れてたよ。」
馬鹿だ。
折角、2人に渡そうと、家庭部が作って販売していたクッキーを買ったのに。
鞄にしまったまま、その存在を忘れていた。
「ちょっと、2人に渡して来る。」
まだ、2人共いるよね?
するりと、暁の腕の中から抜け出して、私は慌てて小走りで駆け出した。
………………最も安全な場所から。
「っっ、莉茉!」
後ろで暁の声が聞こえたけれど、お土産のクッキーの事で頭が一杯で、振り返る余裕は、私にはなかった。