最高のファーストキス！短編集

５

こちらのシーンを校正し、ファーストキスの演出を加えてみました。

「明日、あたしの誕生日」

早苗は拓也と事務所の前ですれ違ったとき、何気なく聞こえるくらいの声でつぶやいた。その一言が、なぜか拓也の心に強く残った。しかし当日、仕事を終えた拓也は特に行動を起こさず、早苗の誕生日も静かに過ぎていった。大晦日が近づき、早苗は今年もクリスマスを一人で過ごしていた。

年が明け、初詣の日。拓也はまだ「明日は誕生日」と口走った早苗の言葉を思い出していたが、結局何もできずにいた。おみくじを引くと「大吉」が出て、恋愛運の欄に「意中の人現る」と書かれている。拓也の脳裏には早苗の顔が浮かび、何とも言えない気持ちが広がった。

その後、1か月が経ち、拓也は部屋でテレビを見ていた。画面ではバレンタイン特集が流れ、チョコレートの起源や日本独特のバレンタイン文化について紹介されていた。拓也は、これまでバレンタインデーにまったく縁がなかったが、妙に心がそわそわし、結局テレビを消して布団に潜った。

そして、バレンタインデー前日の金曜日。朝から落ち着かない拓也は、事務所で早苗と目が合ったものの、特別な素振りは感じられなかった。会社全体も、バレンタインについて特に話題にする様子はなく、義理チョコの習慣もないらしい。

昼休みになり、拓也が女性社員の隣に座ってパン屋の袋からチョコレートパンを取り出すと、早苗がふと声をかけてきた。

「チョコレートパンみたいな甘いものを食べると、太るよ」

その言葉を聞いた瞬間、拓也の記憶が蘇った。以前、同じような言葉を彼女から聞いたことがあったのだ。

「あっ、その言葉…」

二人は思い出したかのように顔を見合わせ、思わず大笑いしてしまった。そんな自然な会話にほっとしながらも、それ以上の言葉は出てこなかった。

やがて退社時間が近づき、拓也が帰り支度をしていると、早苗がそっと近づいてきた。彼女の頬はうっすら赤く染まっている。

「拓也さん、少し外を歩きませんか？」

彼女の誘いに戸惑いながらも、拓也は頷き、二人で並んで事務所を後にした。夜の冷たい空気に身を震わせながら、静かな街を歩くうちに、自然と会話も途切れがちになる。

しばらく歩いた後、ふと足を止めた早苗が拓也の方を見つめた。

「ねぇ、拓也さん…」

早苗の瞳に不思議な輝きを感じた瞬間、彼女がそっと顔を近づけてきた。拓也は驚きつつも、心臓が高鳴るのを感じる。二人の距離が縮まり、ついに唇が触れ合った。冬の冷たい空気の中で、二人の温かい気持ちが重なり合った瞬間だった。

唇を離すと、早苗は少し恥ずかしそうに目を伏せ、ほほえんだ。

「ありがとう、拓也さん…」

拓也は言葉を失い、ただ微笑み返すだけだった。その一瞬で、二人の間には何かが確かに変わったと感じていた。