最高のファーストキス!短編集



瑠美「元気にしてた?」
小田切節雄、41歳と寺田瑠美、34歳。二人は12年ぶりの再会を楽しみながら、お酒に酔いしれた。その夜、節雄は熊本から北九州の関門海峡へと車を走らせた。瑠美は一年前に彼氏を自殺で亡くしたという話を節雄に打ち明けた。節雄もまた、山梨県での過労により退職し、熊本に戻ってきたところだった。話は尽きることがなく、二人は長いドライブを楽しんでいた。
家が近づいた頃、瑠美がふと節雄に尋ねた。
瑠美「ねぇ、節雄さん。もし子供ができたら、どうする?」
節雄は、失業中である現状を思うと軽く答えられず、少し言葉を濁してしまった。その態度に瑠美の顔色がだんだんと変わっていく。青ざめていたかと思うと、次第に怒りを表すように赤く染まっていった。そして突然、瑠美の手が車のナビに向かい、勢いよく叩きつけた。ナビが壊れ、画面がひび割れる。
その一瞬で、節雄は理解した。軽率な対応をしたことで、瑠美を不安にさせてしまったのだ。しかし、彼は驚くほど冷静だった。このナビはまだ20万円のローンが残っているものの、今はそれを考えるよりも、瑠美の気持ちを優先しようと思った。節雄の頭に浮かんだのは、「瑠美を責めれば、彼女が精神的に追い詰められてしまうかもしれない」という懸念だった。彼は深呼吸をし、冷静さを取り戻そうと努めた。車内には張り詰めた空気が漂っていた。瑠美は車の隅で小さく震え、不安げな目で節雄を見つめている。節雄は彼女にゆっくりと近づき、優しい声で話しかけた。
節雄「瑠美、大丈夫だよ。何があったのか、話してくれないか?」
瑠美は一瞬戸惑ったが、やがてポツリと口を開いた。
瑠美「私…本当にごめんなさい…。友達が何人も…中絶を選んだの。その話を聞いて、いろいろと考えすぎて…」
その告白に、節雄は彼女の心の痛みを感じ取り、そっと彼女の肩に手を置いた。瑠美は安心したのか、目を閉じた。ふと、節雄は瑠美の頬に手を添え、唇を近づけた。瑠美もそっと目を閉じ、二人の唇が触れ合った。その瞬間、時間が止まったかのような静かなひとときが流れた。柔らかな温もりと互いの存在を感じ合いながら、二人の心がようやく重なった。キスが終わると、瑠美は少し微笑んだ。その顔には安堵と喜びが見え、節雄もまた、静かに微笑み返した。その夜、節雄は静かに瑠美を家まで送り届けた。
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