白い結婚?喜んで!〜旦那様、その恋心は勘違いですよ〜
「どうかいたしました?遠慮なさらず、あちらのベンチで召し上がってください。マリッサがポットにお茶を入れて持ってきてくれていますから」
「……これは、なんだ」
「えっ?干し肉ですけれど」
ブルーメル品質には遠く及ばないだろうが、マグシフォン領の加工品もなかなかのものだ。この干し肉も名産品の一つで、こと海運商人からの評判はすこぶる良い。
「朝にぴったりだと言ったよな?」
旦那様は、どうしてか頭を抱えている。
「ええ、言いました。朝から干し肉を噛み締めていると、寝ぼけた頭がすっきりとするのです。歯も丈夫になりますし、先に少しお腹を満たしておくと朝食もより一層美味しく感じられて、お得づくしです!」
こんなに力説しているのに、一向にバスケットを受け取ってくれない。まさかブルーメルには干し肉を食べる習慣がなくて、食べ方が分からないのだろうか。
そう思った私は、中から小さめのものを一切れ摘んで彼の口元へと差し出した。
「はい、どうぞ!」
「い、いや俺は」
「騙されたと思って、さぁ!」
ずいっとさらに近付けると、旦那様の形のいい唇が僅かに開く。かと思えば、まるでやけっぱちのように豪快に口の中に入れた。
「どうですか?どうですか?」
「まぁ、確かに美味い」
「でしょう?良かった!」
自分の領地の食べ物を褒めてもらえることは、素直に嬉しい。やはり朝は干し肉に限ると、私は満足げな表情で残りも手渡した。
「では、これにて失礼いたしますね」
昨日の恩も返せたし、もう思い残すことは何もない。マリッサをちらりと見ると、彼女もこくりと頷いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
急に後ろから勢いよく腕を掴まれ、そのままバランスを崩す。旦那様の胸板はガチガチに鍛え抜かれているらしく、まるで石にでもぶつかったかのような音がした。
「い、痛い……!」
「あ、も、申し訳ない!そんなつもりでは」
あたふたと慌てる様子は、昨日の夕食の席での姿とまるで違う。混乱しているせいか、彼は私をぎゅうっと抱き締めた。
「旦那様落ち着いてください!このままでは、一向に起き上がれません!」
いくら愛のない結婚相手とはいえ、こんな風に密着するとさすがに恥ずかしい。昨日はちゃんとお湯を浴びたよね?と、乙女のような思考回路に陥った。
「この香り……」
「えっ!やっぱり私、お風呂に入らず寝ちゃいましたか⁉︎」
臭いがどうのと言われた私は、思わずくんくんと自らの腕を嗅いだ。体臭なり口臭なり、どうして自分では自分の臭いが分からないのだろう。
「いや、そうじゃない。この花の……《ジャラライラ》の匂いがつき始めている」
そう言って、彼はちらりと花壇に視線を移した。この屋敷のあちこちに咲き誇る、甘く艶やかな香りの白い花。見た目は小ぶりで可愛らしいのに、少し手を伸ばせばたちまち飲まれてしまいそうな蠱惑的な雰囲気を持っている、不思議で素敵な花。確か、ヴァンドームの屋敷でしか見ることの出来ない大変貴重なものなのだとか。
「……これは、なんだ」
「えっ?干し肉ですけれど」
ブルーメル品質には遠く及ばないだろうが、マグシフォン領の加工品もなかなかのものだ。この干し肉も名産品の一つで、こと海運商人からの評判はすこぶる良い。
「朝にぴったりだと言ったよな?」
旦那様は、どうしてか頭を抱えている。
「ええ、言いました。朝から干し肉を噛み締めていると、寝ぼけた頭がすっきりとするのです。歯も丈夫になりますし、先に少しお腹を満たしておくと朝食もより一層美味しく感じられて、お得づくしです!」
こんなに力説しているのに、一向にバスケットを受け取ってくれない。まさかブルーメルには干し肉を食べる習慣がなくて、食べ方が分からないのだろうか。
そう思った私は、中から小さめのものを一切れ摘んで彼の口元へと差し出した。
「はい、どうぞ!」
「い、いや俺は」
「騙されたと思って、さぁ!」
ずいっとさらに近付けると、旦那様の形のいい唇が僅かに開く。かと思えば、まるでやけっぱちのように豪快に口の中に入れた。
「どうですか?どうですか?」
「まぁ、確かに美味い」
「でしょう?良かった!」
自分の領地の食べ物を褒めてもらえることは、素直に嬉しい。やはり朝は干し肉に限ると、私は満足げな表情で残りも手渡した。
「では、これにて失礼いたしますね」
昨日の恩も返せたし、もう思い残すことは何もない。マリッサをちらりと見ると、彼女もこくりと頷いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
急に後ろから勢いよく腕を掴まれ、そのままバランスを崩す。旦那様の胸板はガチガチに鍛え抜かれているらしく、まるで石にでもぶつかったかのような音がした。
「い、痛い……!」
「あ、も、申し訳ない!そんなつもりでは」
あたふたと慌てる様子は、昨日の夕食の席での姿とまるで違う。混乱しているせいか、彼は私をぎゅうっと抱き締めた。
「旦那様落ち着いてください!このままでは、一向に起き上がれません!」
いくら愛のない結婚相手とはいえ、こんな風に密着するとさすがに恥ずかしい。昨日はちゃんとお湯を浴びたよね?と、乙女のような思考回路に陥った。
「この香り……」
「えっ!やっぱり私、お風呂に入らず寝ちゃいましたか⁉︎」
臭いがどうのと言われた私は、思わずくんくんと自らの腕を嗅いだ。体臭なり口臭なり、どうして自分では自分の臭いが分からないのだろう。
「いや、そうじゃない。この花の……《ジャラライラ》の匂いがつき始めている」
そう言って、彼はちらりと花壇に視線を移した。この屋敷のあちこちに咲き誇る、甘く艶やかな香りの白い花。見た目は小ぶりで可愛らしいのに、少し手を伸ばせばたちまち飲まれてしまいそうな蠱惑的な雰囲気を持っている、不思議で素敵な花。確か、ヴァンドームの屋敷でしか見ることの出来ない大変貴重なものなのだとか。