白い結婚?喜んで!〜旦那様、その恋心は勘違いですよ〜
母の好みがこれでもかと詰め込まれたパーラーにて、広いテーブルにも乗り切らないくらいの釣書がどどん!と並べられている。先ほど母が「今日は覚悟なさい!」と叫んでいた言葉の意味は、正に眼前に広がるこ・れ・だった。
「今日こそ選んでもらうわよ、フィリア」
「ねぇ、お母様ぁ。私結婚なんてまだまだしたくありませんん!だって、大好きなお母様と離れ離れになるのが辛いんですもの」
「嘘おっしゃい。ぐうたらして過ごしていたいだけでしょう」
はい、その通り。私は社交界のきらきらも、見目麗しい男性とのどきどきも、貴族間女性とのひりひりも、どれもこれもに魅力を感じないのだ。
いつだったか、幼い頃に家庭教師のレッスンを抜け出して、生まれて初めて芝生の上に寝転んだあの日。眩しい陽の光と、澄んだ空気。綺麗な蝶々が、まるで私を花と勘違いしたかのように、頬に止まった思い出は、きっと永遠に忘れない。
「いいえ。あれは蝶ではなく蛾でした」
「ちょっとマリッサ!人の回想に勝手に入って来ないでよ!」
「全て口から漏れています」
「あら大変、今すぐ修理しなきゃ」
口元を両手で覆いながら、しれっと立ち上がる。その瞬間、母が満面の笑みで私の肩を掴んだ。
「どこへ行こうというのかしら?話はまだ終わっていませんよ」
「いたたた!お母様、爪が!爪が食い込んでいます‼︎」
その反動ですとんと腰を下ろすと、彼女は満足げに頷いて私から手を離す。
ああ、痛い。これは絶対に跡が残っているはずだから、マリッサに手当てをしてもらわなくちゃいけない。上手くいけば、これを口実に二、三日は寝込めるかも。よし、次はその作戦でいきましょう。
「フィリア?聞いているの?」
「はい、もちろんですわ!」
「では今すぐ、速攻、ただちに選んでちょうだいな」
これはいつもと違うぞと、さすがの私でも冷や汗をかく。今まではのらりくらりと躱してきたけれど、年齢的にも母の堪忍袋的にも、いよいよ限界がきたらしい。
「貴女は幸せ者よ?旦那様と私で、こんなに候補を見つけてきたのだから。それがどれだけ骨の折れることなのか、少しは想像してちょうだい」
「うう……、それは確かに」
貴族の結婚というものは、上辺だけの関係も多いと聞く。私の両親は互いに愛し合っているけれど、みんながみんなそうというわけではない。
というか、私には愛なんて分からない。知らない男性と結婚をして、同じ屋根の下で暮らし、ベッドの上で睦み合い、いずれは子を成す。そんな自分が想像出来なくて、途中で「うわあぁ!」となって放り出す。
娘としては、欠陥もいいところ。それでも無理矢理嫁がせたりせず、爪を食い込ませるくらいに留めてくれる母は、きっと良心的な方だ。
「ええい、こうなったらもう腹を括るしかない‼︎」
ふんふんと鼻を鳴らしながら大声で叫ぶと、びしい!と点高く人差し指を突き上げる。そしてそれを、ずらりと並んだ釣書に向かって勢いよく振り下ろした。そして――。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り!はいこれ、決定!」
私は無事、未来の旦那様を選定することに成功いたしました。こんなにも効率的で簡単なやり方は、きっと他にはないでしょう。
「今日こそ選んでもらうわよ、フィリア」
「ねぇ、お母様ぁ。私結婚なんてまだまだしたくありませんん!だって、大好きなお母様と離れ離れになるのが辛いんですもの」
「嘘おっしゃい。ぐうたらして過ごしていたいだけでしょう」
はい、その通り。私は社交界のきらきらも、見目麗しい男性とのどきどきも、貴族間女性とのひりひりも、どれもこれもに魅力を感じないのだ。
いつだったか、幼い頃に家庭教師のレッスンを抜け出して、生まれて初めて芝生の上に寝転んだあの日。眩しい陽の光と、澄んだ空気。綺麗な蝶々が、まるで私を花と勘違いしたかのように、頬に止まった思い出は、きっと永遠に忘れない。
「いいえ。あれは蝶ではなく蛾でした」
「ちょっとマリッサ!人の回想に勝手に入って来ないでよ!」
「全て口から漏れています」
「あら大変、今すぐ修理しなきゃ」
口元を両手で覆いながら、しれっと立ち上がる。その瞬間、母が満面の笑みで私の肩を掴んだ。
「どこへ行こうというのかしら?話はまだ終わっていませんよ」
「いたたた!お母様、爪が!爪が食い込んでいます‼︎」
その反動ですとんと腰を下ろすと、彼女は満足げに頷いて私から手を離す。
ああ、痛い。これは絶対に跡が残っているはずだから、マリッサに手当てをしてもらわなくちゃいけない。上手くいけば、これを口実に二、三日は寝込めるかも。よし、次はその作戦でいきましょう。
「フィリア?聞いているの?」
「はい、もちろんですわ!」
「では今すぐ、速攻、ただちに選んでちょうだいな」
これはいつもと違うぞと、さすがの私でも冷や汗をかく。今まではのらりくらりと躱してきたけれど、年齢的にも母の堪忍袋的にも、いよいよ限界がきたらしい。
「貴女は幸せ者よ?旦那様と私で、こんなに候補を見つけてきたのだから。それがどれだけ骨の折れることなのか、少しは想像してちょうだい」
「うう……、それは確かに」
貴族の結婚というものは、上辺だけの関係も多いと聞く。私の両親は互いに愛し合っているけれど、みんながみんなそうというわけではない。
というか、私には愛なんて分からない。知らない男性と結婚をして、同じ屋根の下で暮らし、ベッドの上で睦み合い、いずれは子を成す。そんな自分が想像出来なくて、途中で「うわあぁ!」となって放り出す。
娘としては、欠陥もいいところ。それでも無理矢理嫁がせたりせず、爪を食い込ませるくらいに留めてくれる母は、きっと良心的な方だ。
「ええい、こうなったらもう腹を括るしかない‼︎」
ふんふんと鼻を鳴らしながら大声で叫ぶと、びしい!と点高く人差し指を突き上げる。そしてそれを、ずらりと並んだ釣書に向かって勢いよく振り下ろした。そして――。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り!はいこれ、決定!」
私は無事、未来の旦那様を選定することに成功いたしました。こんなにも効率的で簡単なやり方は、きっと他にはないでしょう。