白い結婚?喜んで!〜旦那様、その恋心は勘違いですよ〜
「君に、来月王宮で催されるダンスパーティーのパートナーを頼みたいんだ」
「はいもちろんで……うえぇぇ⁉︎」
「先ほどの言葉、本当に嬉しかった。どうしようかと悩んでいたから、救われたよ」
「ふぬうぅぅ……っ」
そう言われてしまっては、今さら断れない。私の頭の中は「白い結婚ではなかったの⁉︎」という疑問でいっぱいで、まさかこんな展開になるなんて想像もしていなかった。
「いや、当たり前でしょう。どんな形であれ、フィリア様は若旦那様の妻なのですから」
「わっ、マリッサ!そういえばいたのよね」
「ええ、ずっとお側におりました」
急にぬっと顔を出すものだから、驚いて声を上げそうになった。というより、上げてしまった。
「次回開催される王宮でのパーティーは、この国の第三王女様の生誕祭です。もちろん欠席など出来ませんし、まさか若旦那様をお一人で行かせるおつもりですか?」
「そ、そうは言っても私……」
「美しい土地と快適な屋敷、美味しい食べ物と新鮮な空気。それらをいいとこ取りして務めは一切果たさず、ご自分だけ優雅に芝に寝転がっていたいと。つまりフィリア様は、そうおっしゃりたいわけで」
「ちちち、違うってば!マリッサの言いたいことは分かってるから!」
能面顔でつらつらと正論を並べ立て、ついには彼女と私の顔がくっついてしまいそうなくらいに詰め寄られた。こうなっては、もうどうすることも出来ない。
「わ、私でよろしければ、ぜひパートナーを務めさせていただきます」
「本当か?ああ、ありがとう!とても助かるよ」
「い、いえ。このくらいお安いご用意です」
旦那様は私の両肩をがっしりと掴むと、喜びのあまりぶんぶんと前後に振り回す。確かにマリッサの言う通り、ただの一度も社交の場に顔を出さないのはまずい。
「あの手紙を読んだ時、旦那様にはてっきり他に良・い・方・がいらっしゃるのだとばかり」
「冗談だろう?妻の他に愛人なんて、白目をむいて倒れそうだ」
心底嫌そうに顔を歪めてみせる彼は、よほどの女難に見舞われてきたのだろう。詳細は聞かないでおこうと思いつつ、なんとなく同情心も芽生えてくる。
「父もきっと喜んでくれる」
「だと良いのですけれど……」
「早速明日、腕利きの仕立て屋を呼ぼう。ドレスを新調しなければ」
「いえ、この間いただいたもので十分です」
そう進言したけれど首を横に振られ、旦那様は満足げな顔をしてそのまま去っていく。取り残された私は、ふらふらとおぼつかない足取りでどさりと尻餅をついた。
「……私、ドレスや靴の採寸が大っ嫌いなの」
「ええ、もちろん存じております。奥様に縛り上げられている場面を、もう何十回と見てきましたから」
「それに、せっかくブルーメルにやって来たのに、また何十日もかけて王都へ帰らなければならないなんて、考えただけでも泣きそうよ」
何十日は、少し大袈裟だったかもしれない。私の体感的には、それほど辛かったという意味だ。
「フィリア様」
マリッサが私の肩に手を置いて、こくりと頷く。
「ダイジョブ、ダイジョブ」
「ちっとも心がこもってないじゃない‼︎」
まるで昼寝が上手くできない子どものように、私は手足をばたつかせながら彼女に八つ当たりしたのだった。
「はいもちろんで……うえぇぇ⁉︎」
「先ほどの言葉、本当に嬉しかった。どうしようかと悩んでいたから、救われたよ」
「ふぬうぅぅ……っ」
そう言われてしまっては、今さら断れない。私の頭の中は「白い結婚ではなかったの⁉︎」という疑問でいっぱいで、まさかこんな展開になるなんて想像もしていなかった。
「いや、当たり前でしょう。どんな形であれ、フィリア様は若旦那様の妻なのですから」
「わっ、マリッサ!そういえばいたのよね」
「ええ、ずっとお側におりました」
急にぬっと顔を出すものだから、驚いて声を上げそうになった。というより、上げてしまった。
「次回開催される王宮でのパーティーは、この国の第三王女様の生誕祭です。もちろん欠席など出来ませんし、まさか若旦那様をお一人で行かせるおつもりですか?」
「そ、そうは言っても私……」
「美しい土地と快適な屋敷、美味しい食べ物と新鮮な空気。それらをいいとこ取りして務めは一切果たさず、ご自分だけ優雅に芝に寝転がっていたいと。つまりフィリア様は、そうおっしゃりたいわけで」
「ちちち、違うってば!マリッサの言いたいことは分かってるから!」
能面顔でつらつらと正論を並べ立て、ついには彼女と私の顔がくっついてしまいそうなくらいに詰め寄られた。こうなっては、もうどうすることも出来ない。
「わ、私でよろしければ、ぜひパートナーを務めさせていただきます」
「本当か?ああ、ありがとう!とても助かるよ」
「い、いえ。このくらいお安いご用意です」
旦那様は私の両肩をがっしりと掴むと、喜びのあまりぶんぶんと前後に振り回す。確かにマリッサの言う通り、ただの一度も社交の場に顔を出さないのはまずい。
「あの手紙を読んだ時、旦那様にはてっきり他に良・い・方・がいらっしゃるのだとばかり」
「冗談だろう?妻の他に愛人なんて、白目をむいて倒れそうだ」
心底嫌そうに顔を歪めてみせる彼は、よほどの女難に見舞われてきたのだろう。詳細は聞かないでおこうと思いつつ、なんとなく同情心も芽生えてくる。
「父もきっと喜んでくれる」
「だと良いのですけれど……」
「早速明日、腕利きの仕立て屋を呼ぼう。ドレスを新調しなければ」
「いえ、この間いただいたもので十分です」
そう進言したけれど首を横に振られ、旦那様は満足げな顔をしてそのまま去っていく。取り残された私は、ふらふらとおぼつかない足取りでどさりと尻餅をついた。
「……私、ドレスや靴の採寸が大っ嫌いなの」
「ええ、もちろん存じております。奥様に縛り上げられている場面を、もう何十回と見てきましたから」
「それに、せっかくブルーメルにやって来たのに、また何十日もかけて王都へ帰らなければならないなんて、考えただけでも泣きそうよ」
何十日は、少し大袈裟だったかもしれない。私の体感的には、それほど辛かったという意味だ。
「フィリア様」
マリッサが私の肩に手を置いて、こくりと頷く。
「ダイジョブ、ダイジョブ」
「ちっとも心がこもってないじゃない‼︎」
まるで昼寝が上手くできない子どものように、私は手足をばたつかせながら彼女に八つ当たりしたのだった。