白い結婚?喜んで!〜旦那様、その恋心は勘違いですよ〜
※オズベルト視点
♢♢♢【オズベルト視点】
「やぁ、若旦那様。調子はどうだい?」
「ああ、良かったよ。お前の顔を見るまでは、な」
「酷い言い草だなぁ、本当は嬉しいくせに」
領地の視察中、背後から肩を叩かれる。振り向かずとも、その軽薄そうな声色ですぐに誰だか分かった。
昔からの友人テミアン・セシルバは、良いやつだがいまいち掴みどころがない。興味のあることにはとことんだが、意外と冷徹な部分もある。
「僕も一度お目にかかりたいな、《六の出目》の奥様に」
「……その言い方は止めろ、馬鹿野郎」
「おや、珍しい。君が女性を庇うなんて」
テミアンが瞬きを繰り返すのが、少し腹立たしい。が、確かに僕はこれまで、女性というカテゴリを一括りにして嫌悪感を抱いていた。それは妻であるフィリアに対しても同じで、彼女を愛するなどもってのほかで必要時以外は会話をする気もなかったのだ。
「あの結婚式で我慢してくれるだけでも、このブルーメルくらい心が広いんじゃない?」
「……まぁ」
「えっ!今、認めた⁉︎」
なんとも大仰に両手を広げて見せるテミアンの指を、反対側に折り曲げてやりたくなる。僕が睨みを聴かせてみても、ちっともダメージは与えられなかった。
「ちょ、ちょっと!その話詳しく聞かせてよ」
「おいこら、離せ!」
彼はぐいぐいと俺をせっつき、ヴァンドームの馬車付近まで追いやる。ここならば、人目につきにくいと考えたのだろう。
「オズベルト、君まさか奥様を好きになっちゃったの?女性と聞けばすぐ大げさに反応する、あの君が?」
「さっきから失礼な言い方だな。人を欠陥品みたいに」
「そうは思わないけど、意外過ぎて」
確かに、昔から僕の側にいるテミアンからしてみれば、これほど驚いても無理はないのかもしれない。十中八九、面白がられているような気がするが。
「好きという感情は理解が出来ない」
「君が僕に対して感じる気持ちと同じだよ」
「じゃあ、絶対に好きではないと誓えるな」
腕組みと共にふんと鼻を鳴らすと、彼は微苦笑を浮かべる。
「冗談はここまでにして。奥様は、どんな人?可愛い?綺麗?お淑やか?」
「僕を黄金虫に喩える肉好きの女性だ」
「ぶはっ‼︎」
眼前の馬車が吹き飛ぶのではと心配になるほど、テミアンは盛大に噴き出した。みるみるうちに瞳に涙が溜まり、腹を抱えて笑い始める。
「こんな美男子を虫に?まったく、最高に可愛らしい方だね!」
「……もう、お前には話さない」
「ああ、ごめんって。それで君は、怒っているのかい?気分を害した?」
「……いや、まったく」
彼女――フィリアは、今までに僕が出会ったことのないタイプの女性であることは間違いない。まるで無邪気な子供のようで、たとえ貴族でなくとも年頃の娘ならもう少し洒落ているのではと思う。
むせかえるような香水の匂いも、甘ったるい吐息も、分かりやすい世辞も何ひとつない。僕の苦手な女臭さを微塵も感じさせない女性だった。
「やぁ、若旦那様。調子はどうだい?」
「ああ、良かったよ。お前の顔を見るまでは、な」
「酷い言い草だなぁ、本当は嬉しいくせに」
領地の視察中、背後から肩を叩かれる。振り向かずとも、その軽薄そうな声色ですぐに誰だか分かった。
昔からの友人テミアン・セシルバは、良いやつだがいまいち掴みどころがない。興味のあることにはとことんだが、意外と冷徹な部分もある。
「僕も一度お目にかかりたいな、《六の出目》の奥様に」
「……その言い方は止めろ、馬鹿野郎」
「おや、珍しい。君が女性を庇うなんて」
テミアンが瞬きを繰り返すのが、少し腹立たしい。が、確かに僕はこれまで、女性というカテゴリを一括りにして嫌悪感を抱いていた。それは妻であるフィリアに対しても同じで、彼女を愛するなどもってのほかで必要時以外は会話をする気もなかったのだ。
「あの結婚式で我慢してくれるだけでも、このブルーメルくらい心が広いんじゃない?」
「……まぁ」
「えっ!今、認めた⁉︎」
なんとも大仰に両手を広げて見せるテミアンの指を、反対側に折り曲げてやりたくなる。僕が睨みを聴かせてみても、ちっともダメージは与えられなかった。
「ちょ、ちょっと!その話詳しく聞かせてよ」
「おいこら、離せ!」
彼はぐいぐいと俺をせっつき、ヴァンドームの馬車付近まで追いやる。ここならば、人目につきにくいと考えたのだろう。
「オズベルト、君まさか奥様を好きになっちゃったの?女性と聞けばすぐ大げさに反応する、あの君が?」
「さっきから失礼な言い方だな。人を欠陥品みたいに」
「そうは思わないけど、意外過ぎて」
確かに、昔から僕の側にいるテミアンからしてみれば、これほど驚いても無理はないのかもしれない。十中八九、面白がられているような気がするが。
「好きという感情は理解が出来ない」
「君が僕に対して感じる気持ちと同じだよ」
「じゃあ、絶対に好きではないと誓えるな」
腕組みと共にふんと鼻を鳴らすと、彼は微苦笑を浮かべる。
「冗談はここまでにして。奥様は、どんな人?可愛い?綺麗?お淑やか?」
「僕を黄金虫に喩える肉好きの女性だ」
「ぶはっ‼︎」
眼前の馬車が吹き飛ぶのではと心配になるほど、テミアンは盛大に噴き出した。みるみるうちに瞳に涙が溜まり、腹を抱えて笑い始める。
「こんな美男子を虫に?まったく、最高に可愛らしい方だね!」
「……もう、お前には話さない」
「ああ、ごめんって。それで君は、怒っているのかい?気分を害した?」
「……いや、まったく」
彼女――フィリアは、今までに僕が出会ったことのないタイプの女性であることは間違いない。まるで無邪気な子供のようで、たとえ貴族でなくとも年頃の娘ならもう少し洒落ているのではと思う。
むせかえるような香水の匂いも、甘ったるい吐息も、分かりやすい世辞も何ひとつない。僕の苦手な女臭さを微塵も感じさせない女性だった。