白い結婚?喜んで!〜旦那様、その恋心は勘違いですよ〜
普段好き勝手していても、私にも一応の分別はある。こういう場所ではダンスと歓談がメインで、食事を貪っている紳士淑女はほとんどいない。女性は、特にそれが顕著だった。
いつもより何倍もの力でコルセットを締めているせいもあるのかもしれないけれど、私のお腹の虫はそんな事情を考慮してはくれない。
こうなることは分かっていたから、出立前にお屋敷でマリッサがたくさん食べさせてくれたのに。
「お腹空いた……」
誰にも聞かれないよう、ベルベットのカーペットに向かって話しかけた。
「どうした?人酔いしたか?」
隣に立つ旦那様は、先ほどの様子が嘘のように凛としている。きらきらと輝くシャンデリアの光を、彼の紫黒の髪が取り込んでいる。私の顔を覗き込む瞳も同様で、吸い込まれてしまいそうなくらいに魅力的だ。
それに加えて次期辺境伯という大き過ぎる肩書きを背負っているのだから、女性達が色めき立つのも納得出来る。私と同じで社交の場にはほとんど顔を出さない方らしいから、幻の妖精が秘境の地から現れたような付加価値もついて、必要以上に騒がれてしまうのだろう。
「私は平気です。旦那様は?」
「僕も落ち着いた。君のおかげだ」
柔らかく目を細められると、なんとなく居心地が悪い。だって私はまだ、なんの役にも立てていないのだから。
それにしても彼はきょろきょろと視線を彷徨わせながら、決して私の傍を離れようとしない。それどころか、続々と参加者が増えるにつれてさらに距離が縮まっているように感じるのは、果たして私の気のせいなのだろうか。
「やぁ、ごきげんよう。久し振りのパーティーは楽しんでいるかい?」
その時、旦那様の肩にぽんと手が置かれる。その男性はすぐに私に気が付いて、にこりと人当たりの良い笑みを浮かべた。
「初めまして奥様、お噂はかねがね。僕はオズベルトの親友テミアン・セシルバと言います。セシルバ侯爵領はブルーメルに隣接していて、家同士が友好を結んだ仲なんだ。だから昔から、よく一緒に遊んでた」
「まぁ、そうなのですか。初めまして、セシルバ様。私は、フィリア・マグシフォンと申します」
母から叩き込まれたカーテシーを披露しながら、優雅に挨拶してみせる。その瞬間、セシルバ様だけでなく旦那様までもがこれでもかと目を見開いた。そんなに私のカーテシーが完璧だったのかと、自分の才能に震える。
「……フィリア。君はもう、マグシフォンではない」
「えっ?あ、ああ!そうでした!私も旦那様と同じヴァンドームでした!」
それで二人は驚いていたのかと、勝手に勘違いした自分を大いに恥じた。そういえば、結婚してから公式の場で誰かに名乗るのは初めてかもしれない。今後は気を付けねばと、心の頬っぺたをぎゅうっとつねった。
いつもより何倍もの力でコルセットを締めているせいもあるのかもしれないけれど、私のお腹の虫はそんな事情を考慮してはくれない。
こうなることは分かっていたから、出立前にお屋敷でマリッサがたくさん食べさせてくれたのに。
「お腹空いた……」
誰にも聞かれないよう、ベルベットのカーペットに向かって話しかけた。
「どうした?人酔いしたか?」
隣に立つ旦那様は、先ほどの様子が嘘のように凛としている。きらきらと輝くシャンデリアの光を、彼の紫黒の髪が取り込んでいる。私の顔を覗き込む瞳も同様で、吸い込まれてしまいそうなくらいに魅力的だ。
それに加えて次期辺境伯という大き過ぎる肩書きを背負っているのだから、女性達が色めき立つのも納得出来る。私と同じで社交の場にはほとんど顔を出さない方らしいから、幻の妖精が秘境の地から現れたような付加価値もついて、必要以上に騒がれてしまうのだろう。
「私は平気です。旦那様は?」
「僕も落ち着いた。君のおかげだ」
柔らかく目を細められると、なんとなく居心地が悪い。だって私はまだ、なんの役にも立てていないのだから。
それにしても彼はきょろきょろと視線を彷徨わせながら、決して私の傍を離れようとしない。それどころか、続々と参加者が増えるにつれてさらに距離が縮まっているように感じるのは、果たして私の気のせいなのだろうか。
「やぁ、ごきげんよう。久し振りのパーティーは楽しんでいるかい?」
その時、旦那様の肩にぽんと手が置かれる。その男性はすぐに私に気が付いて、にこりと人当たりの良い笑みを浮かべた。
「初めまして奥様、お噂はかねがね。僕はオズベルトの親友テミアン・セシルバと言います。セシルバ侯爵領はブルーメルに隣接していて、家同士が友好を結んだ仲なんだ。だから昔から、よく一緒に遊んでた」
「まぁ、そうなのですか。初めまして、セシルバ様。私は、フィリア・マグシフォンと申します」
母から叩き込まれたカーテシーを披露しながら、優雅に挨拶してみせる。その瞬間、セシルバ様だけでなく旦那様までもがこれでもかと目を見開いた。そんなに私のカーテシーが完璧だったのかと、自分の才能に震える。
「……フィリア。君はもう、マグシフォンではない」
「えっ?あ、ああ!そうでした!私も旦那様と同じヴァンドームでした!」
それで二人は驚いていたのかと、勝手に勘違いした自分を大いに恥じた。そういえば、結婚してから公式の場で誰かに名乗るのは初めてかもしれない。今後は気を付けねばと、心の頬っぺたをぎゅうっとつねった。