白い結婚?喜んで!〜旦那様、その恋心は勘違いですよ〜
「フィ、フィリア?」
「嬉しいです、旦那様」
この芝居に出来るだけ乗ろうと、一生懸命頑張っている。彼は紫黒色の瞳をまるでブルーベリーのようにまん丸にしたと思ったら、今度は収穫時期を過ぎてしまったリンゴと同じくらい頬を赤く染めた。
「可愛い……」
「えっ?」
「どうしたらいいだろう、君が可愛くて胸が苦しいんだが」
「い、いえいえそれは勘違いです!」
仲睦まじい夫婦の演技に付き合おうと思ったけれど、これはさすがにやり過ぎではないだろうか。見栄の張り過ぎか、ワインの飲み過すぎか、はたまた花香の効力が効き過ぎているのか。
やんわり手を離そうとすると、途端にしゅんと眉尻が下がるので、その可愛らしさにやられてしまってどうしようもない。
これはやっぱりジャラライラの香気せいで、そうなるとセシルバ様の身も危ないのではと、確かめる為に私は彼に顔を寄せた。
「セシルバ様、少々よろしいでしょうか?」
「うん、どうしたの?」
「しばらくの間、私と目を合わせてくださいませ」
私よりずっと華やかで愛らしい尊顔を、じいっと見つめる。私達二人の視線が絡むよりも先に、旦那様の大きな掌が私の視界を真っ暗に遮った。
「駄目だ、フィリア。他の男を魅了するな」
「わ、私はただ確かめたかっただけで」
「これ以上妬いたら、僕はテミアンが嫌いになりそうだ」
「それは大変です!今すぐに止めます!」
冷静になれば、どう見てもセシルバ様は香気に酔っている感じはしないけれど、目隠しをされたまま耳元で囁かれるのは非常に恥ずかしいので、私は必死にこくこくと頷いたのだった。
「……オズベルト、本当に良かった」
やっと視界が開けたと思ったら、今度は目の前でセシルバ様が号泣していらっしゃるから、ぎょっとして目を見開いてしまう。この数分の間に想定外の出来事が連発し過ぎて、もう目を回して倒れそうになった。
「容姿と肩書きのせいで散々振り回されてきた君を見ていたから、嬉しくてつい」
吹っ切れたように笑うセシルバ様を見ながら、私の顔からさぁっと血の気が引いていく。これは、ちょっと嘘を吐いたレベルを超えてしまったのではないだろうかと。
「ようやく、愛し愛される喜びを知ったんだね」
めちゃくちゃな勘違いをされていて、今さら違うとはとても言い出せない。
こうなったら旦那様に助けてもらおうと彼を見上げても、気恥ずかしげに指で頬をかいているだけ。その姿に、ちょっと苛立ちさえ覚えてしまった。
親友を騙して嬉し涙まで流させて、貴方の心は痛まないのですかと言いたい気持ちを、ぐぐっと抑える。
「だ、旦那様。少し話したいのですがよろしいでしょうか」
「ああ、もちろん」
このままではまずいと、私は彼に目力で訴える。全く気付いていない様子だけれど、とにかく一旦落ち着きたい。
今だにハンカチで目元を拭っているセシルバ様に会釈して、私達は人気のないバルコニーに出ようと足を進める。その時、執事服を見に纏った紳士が足音も立てず目の前に現れて、旦那様の眼前で深々と礼をした。
「嬉しいです、旦那様」
この芝居に出来るだけ乗ろうと、一生懸命頑張っている。彼は紫黒色の瞳をまるでブルーベリーのようにまん丸にしたと思ったら、今度は収穫時期を過ぎてしまったリンゴと同じくらい頬を赤く染めた。
「可愛い……」
「えっ?」
「どうしたらいいだろう、君が可愛くて胸が苦しいんだが」
「い、いえいえそれは勘違いです!」
仲睦まじい夫婦の演技に付き合おうと思ったけれど、これはさすがにやり過ぎではないだろうか。見栄の張り過ぎか、ワインの飲み過すぎか、はたまた花香の効力が効き過ぎているのか。
やんわり手を離そうとすると、途端にしゅんと眉尻が下がるので、その可愛らしさにやられてしまってどうしようもない。
これはやっぱりジャラライラの香気せいで、そうなるとセシルバ様の身も危ないのではと、確かめる為に私は彼に顔を寄せた。
「セシルバ様、少々よろしいでしょうか?」
「うん、どうしたの?」
「しばらくの間、私と目を合わせてくださいませ」
私よりずっと華やかで愛らしい尊顔を、じいっと見つめる。私達二人の視線が絡むよりも先に、旦那様の大きな掌が私の視界を真っ暗に遮った。
「駄目だ、フィリア。他の男を魅了するな」
「わ、私はただ確かめたかっただけで」
「これ以上妬いたら、僕はテミアンが嫌いになりそうだ」
「それは大変です!今すぐに止めます!」
冷静になれば、どう見てもセシルバ様は香気に酔っている感じはしないけれど、目隠しをされたまま耳元で囁かれるのは非常に恥ずかしいので、私は必死にこくこくと頷いたのだった。
「……オズベルト、本当に良かった」
やっと視界が開けたと思ったら、今度は目の前でセシルバ様が号泣していらっしゃるから、ぎょっとして目を見開いてしまう。この数分の間に想定外の出来事が連発し過ぎて、もう目を回して倒れそうになった。
「容姿と肩書きのせいで散々振り回されてきた君を見ていたから、嬉しくてつい」
吹っ切れたように笑うセシルバ様を見ながら、私の顔からさぁっと血の気が引いていく。これは、ちょっと嘘を吐いたレベルを超えてしまったのではないだろうかと。
「ようやく、愛し愛される喜びを知ったんだね」
めちゃくちゃな勘違いをされていて、今さら違うとはとても言い出せない。
こうなったら旦那様に助けてもらおうと彼を見上げても、気恥ずかしげに指で頬をかいているだけ。その姿に、ちょっと苛立ちさえ覚えてしまった。
親友を騙して嬉し涙まで流させて、貴方の心は痛まないのですかと言いたい気持ちを、ぐぐっと抑える。
「だ、旦那様。少し話したいのですがよろしいでしょうか」
「ああ、もちろん」
このままではまずいと、私は彼に目力で訴える。全く気付いていない様子だけれど、とにかく一旦落ち着きたい。
今だにハンカチで目元を拭っているセシルバ様に会釈して、私達は人気のないバルコニーに出ようと足を進める。その時、執事服を見に纏った紳士が足音も立てず目の前に現れて、旦那様の眼前で深々と礼をした。