白い結婚?喜んで!〜旦那様、その恋心は勘違いですよ〜
「王女殿下が旦那様をお慕いするお気持ちはよく分かりますが、私はこの方の側にいたいのです」
「フィリア……」
「どうか、今後の私の妻としての働きを見て、ご判断願えないでしょうか?殿下が相応しくないと感じたら、いつでも叩き出してください」
「フィリア……!」
 二度目に私の名前を呼んだ旦那様の声色が感激に満ち溢れていて、そこで初めて自分が勢い任せにとんでもないことを口にしたのだと気付く。
 白い結婚に胡座をかいて妻の役目も碌に果たさず、屋敷で虫を追いかけたり日向ぼっこをしたりして遊んでいるような私は、速攻でヴァンドームの屋敷を追い出されてもおかしくないのだ。
「いいでしょう!そこまで言うのなら、貴女がどれだけ立派に妻としての役目をまっとうしているのか、一度この目で見させてもらうわ!」
「い、いえいえ。ヴァンドーム領はそれはそれは王都から離れておりますので、王女殿下のお体に負担がかかってしまうのではと」
「平気よ、私体は丈夫だから」
 ふんと鼻を鳴らしながら腕を組んで、挑戦を受ける気満々の表情を浮かべている。
 これはまずいことになったと旦那様に目で訴えても、彼は心ここにあらずといった様子でぽーっと空を見つめていた。
「アンナマリア王女殿下」
 と思いきや、彼は一瞬できりりと表情を変える。腰に手が回ったままなのでやんわりと離れようとするも、ぐっと力を込めて阻止された。
「我がブルーメルへお越しくださるのは大変光栄ですが、私達夫婦は現状に満足しています。フィリアは素晴らしい妻ですし、これから先誰に何を言われようと離縁する気はありません」
「そ、それは言い過ぎ……、むぐ!」
 せっかく不穏な雰囲気がなくなったのに、私の口はすぐに余計なお喋りをする。嘘を吐かせるのは心苦しいけれど、ここを穏便に切り抜ける為には仕方のないことだ。
「ありがとうございます、旦那様」
「本当のことだ、礼を言う必要はない」
 紫黒の瞳が優しく揺れて、まるで私を本当に想ってくれていると勘違いするほど慈愛に満ちた表情を浮かべる。
 思わず心臓がぎゅうっと締め付けられて、一瞬演技であることを忘れてしまった。
「あ、あはは」
「いやだ貴女、変な顔で笑わないで」
「す、すみません」
 変な笑顔は不敬にあたるのだろうか、いや今はそれを気にしている場合ではない。旦那様の態度がますます演技の域を超えていて、もしやあの花の効果が強まっているのかもしれないと、心配になる。
 私のせいじゃないと言いたいところだけれど、おかしくなっていく旦那様を見ているのは辛い。
 後できちんと話をしなければと思いながら、熱い頬を隠すようにふいっと横を向いた。
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