白い結婚?喜んで!〜旦那様、その恋心は勘違いですよ〜
第六章「旦那様に関する衝撃の真実」
♢♢♢
ある日の昼下がり。公務があるという旦那様よりひと足先にブルーメルへと戻ることになった私は、案の定長い道のりに悶えながらなんとか屋敷へと戻ってきた。
旦那様と一緒だった時にはだいぶましだったから、慣れたのかと思っていたのに、まったくそんなことはなかったらしい。
数日後遺症に苦しんだ後、ようやく復活を果たした私。マリッサから部屋の外へ出ることを許可された私は、意気揚々と庭へ飛び出した。
「わぁ、暑い!あはははは!」
眩しい太陽の下、にやにや笑いながらひたすらぐるぐると回る私は、側から見ればちょっと怖いかもしれないと自分自身でも思う。
王都にいたのはわずかな日数で、実家にすらちらっとしか顔を出さずさっさと帰ってきたはずなのに、ブルーメルの地を踏んだ瞬間、懐かしさがぶわっと私を襲った。
私の故郷はマグシフォン領で、王都のタウンハウスでもそれなりに過ごした。この場所に嫁いできたのはまだほんの数ヶ月前なのに、こんな気持ちになるなんて不思議な心地だった。
「だいぶ暑くなってきたなぁ」
「もうすぐ夏ですから」
「ホタル見れるかな、ホタル!」
わくわくしながら彼女に尋ねると、マリッサはなんとも微妙な顔をする。
「まるでカレッジの夏期休暇を心待ちにする学生のようですね」
「失礼な!私はれっきとした旦那様の妻なんですからね!」
「虫取り網を欲しがる奥方様とは、なんとも斬新です」
「ど、どうして分かるの⁉︎さすがマリッサ!」
わきわきと忙しなく動く私の右手は、確かに虫取り網を欲していた。マグシフォン領では夏になるとそれを片手に庭を駆け回り、母や弟からしらけた目で見られたものだ。
「さすがに、網を嫁入り道具とするわけにはいかないしさ」
「それはそれで面白いかもしれませんよ」
「もう、からかってるわね」
ぷんと頬を膨らませてみせると、マリッサは悪戯っぽく笑う。普段冷静で表情筋が硬い彼女の笑顔は、私にとっては砂場で砂金を掘り当てた時くらいの価値があるのだ。
「奥様、少しよろしいでしょうか」
「あっ、クイネ先生!」
ぱっと顔を向けた先には侍女長であるクイネ先生が立っていて、私を見るなりぴしりと礼儀正しく頭を下げる。
「……先生はやめていただけませんでしょうか」
「大丈夫です、旦那様にも許可はいただいていますから!」
以前、第三王女殿下の生誕パーティーに急遽私も参加することが決まった時、その一才の指導を彼女が引き受けてくれた。残念ながらダンスの成果は披露出来なかったけれど、私が何をしても先生が褒めてくれるので、自己肯定感がぐぐんと上がり、苦手なパーティーの席でもしゃんと立っていられた。
「そういう問題ではないのですが……」
「フィリア様は言い出すと聞かない質ですので、諦めた方がよろしいかと」
「では、三人でいる時だけというお約束でお願いいたします」
「了解しました、クイネ先生!」
マリッサが彼女にそんなアドバイスをしたので、どうやら諦めて先生呼びを受け入れてくれたようだ。にこにこしながら右手を差し出すと、彼女は微笑みながら握手をしてくれた。
ある日の昼下がり。公務があるという旦那様よりひと足先にブルーメルへと戻ることになった私は、案の定長い道のりに悶えながらなんとか屋敷へと戻ってきた。
旦那様と一緒だった時にはだいぶましだったから、慣れたのかと思っていたのに、まったくそんなことはなかったらしい。
数日後遺症に苦しんだ後、ようやく復活を果たした私。マリッサから部屋の外へ出ることを許可された私は、意気揚々と庭へ飛び出した。
「わぁ、暑い!あはははは!」
眩しい太陽の下、にやにや笑いながらひたすらぐるぐると回る私は、側から見ればちょっと怖いかもしれないと自分自身でも思う。
王都にいたのはわずかな日数で、実家にすらちらっとしか顔を出さずさっさと帰ってきたはずなのに、ブルーメルの地を踏んだ瞬間、懐かしさがぶわっと私を襲った。
私の故郷はマグシフォン領で、王都のタウンハウスでもそれなりに過ごした。この場所に嫁いできたのはまだほんの数ヶ月前なのに、こんな気持ちになるなんて不思議な心地だった。
「だいぶ暑くなってきたなぁ」
「もうすぐ夏ですから」
「ホタル見れるかな、ホタル!」
わくわくしながら彼女に尋ねると、マリッサはなんとも微妙な顔をする。
「まるでカレッジの夏期休暇を心待ちにする学生のようですね」
「失礼な!私はれっきとした旦那様の妻なんですからね!」
「虫取り網を欲しがる奥方様とは、なんとも斬新です」
「ど、どうして分かるの⁉︎さすがマリッサ!」
わきわきと忙しなく動く私の右手は、確かに虫取り網を欲していた。マグシフォン領では夏になるとそれを片手に庭を駆け回り、母や弟からしらけた目で見られたものだ。
「さすがに、網を嫁入り道具とするわけにはいかないしさ」
「それはそれで面白いかもしれませんよ」
「もう、からかってるわね」
ぷんと頬を膨らませてみせると、マリッサは悪戯っぽく笑う。普段冷静で表情筋が硬い彼女の笑顔は、私にとっては砂場で砂金を掘り当てた時くらいの価値があるのだ。
「奥様、少しよろしいでしょうか」
「あっ、クイネ先生!」
ぱっと顔を向けた先には侍女長であるクイネ先生が立っていて、私を見るなりぴしりと礼儀正しく頭を下げる。
「……先生はやめていただけませんでしょうか」
「大丈夫です、旦那様にも許可はいただいていますから!」
以前、第三王女殿下の生誕パーティーに急遽私も参加することが決まった時、その一才の指導を彼女が引き受けてくれた。残念ながらダンスの成果は披露出来なかったけれど、私が何をしても先生が褒めてくれるので、自己肯定感がぐぐんと上がり、苦手なパーティーの席でもしゃんと立っていられた。
「そういう問題ではないのですが……」
「フィリア様は言い出すと聞かない質ですので、諦めた方がよろしいかと」
「では、三人でいる時だけというお約束でお願いいたします」
「了解しました、クイネ先生!」
マリッサが彼女にそんなアドバイスをしたので、どうやら諦めて先生呼びを受け入れてくれたようだ。にこにこしながら右手を差し出すと、彼女は微笑みながら握手をしてくれた。