白い結婚?喜んで!〜旦那様、その恋心は勘違いですよ〜
「フィリア、どうした?何かあったのか?」
「い、いえ何もありません。お久しぶりでしたので、少し驚いてしまっただけです」
「そ、そうか。ならいいが」
帰って早々私の奇行に悩まされるなんて、旦那様は可哀想な夫だ。私だって、出来ることなら笑顔で出迎えたかったのに。
「僕が留守の間、変わりはなかったか?」
「あ、蟻の巣が増えました」
「ははっ、それは確かに大きな変化だ」
薄手のジャケットを脱ぎ、それを使用人に手渡しながら小さく微笑む。そして流れるような動作で、私の頭にぽんと掌を乗せた。
「君の顔を見ると、帰って来たと実感するよ」
「だ、旦那様……」
「そう呼ばれるのも慣れたと思っていたが、久々だとやはり嬉しいものだな」
柔らかな声色と、優しげな紫黒の瞳。彼が動くたびに同色の髪がさらさらと揺れて、この方はこんなにも魅力的だったろうかと再認識させられる。
「……お帰りなさいませ。お変わりないようで安心いたしました」
「ああ、ありがとう」
そんな風に言われたら、もう二度と呼べないかもしれないと思いながら、いつもよりずっと丁寧に頭を下げる。なんとなく違和感を感じたのか、彼の片眉が微かにぴくりと反応した。
「ちょっとオズベルト。いつになったら、僕を紹介してくれるんだい?」
「あれっ、セシルバ様⁉︎」
「やぁ、ミセス・ヴァンドーム。連絡もなしにお邪魔して申し訳ない。急に暇になったから、オズベルトについてきちゃった」
長躯である旦那様の後ろからひょこりと顔を出したのは、テミアン・セシルバ様だった。第三王女殿下の生誕パーティーで初めて顔を合わせた、旦那様とは旧知の仲らしい社交的な方。改めてお姿を拝見すると、旦那様とはまた違ったタイプの美青年。二人が並ぶとその周りがぱっと華やぎ、これはさぞかし社交界でも騒がれたことだろうと、思わず凝視してしまった。
「僕は止めろと言ったのに、こいつが無理矢理ついて来たんだ」
「だって、あの時は彼女とゆっくり話せなかったからさ」
「そんな必要はないだろう」
「いやいや、親友の大切な女性は僕にとってもそうだからね。もっと深く知りたいし、知ってもらわないと」
くりくりとした大きな瞳でぱちん!とウィンクされ、まるで飴か小石でも飛ばされたかのようにうっ!と後ろにのけ反ってしまった。
「い、いえ何もありません。お久しぶりでしたので、少し驚いてしまっただけです」
「そ、そうか。ならいいが」
帰って早々私の奇行に悩まされるなんて、旦那様は可哀想な夫だ。私だって、出来ることなら笑顔で出迎えたかったのに。
「僕が留守の間、変わりはなかったか?」
「あ、蟻の巣が増えました」
「ははっ、それは確かに大きな変化だ」
薄手のジャケットを脱ぎ、それを使用人に手渡しながら小さく微笑む。そして流れるような動作で、私の頭にぽんと掌を乗せた。
「君の顔を見ると、帰って来たと実感するよ」
「だ、旦那様……」
「そう呼ばれるのも慣れたと思っていたが、久々だとやはり嬉しいものだな」
柔らかな声色と、優しげな紫黒の瞳。彼が動くたびに同色の髪がさらさらと揺れて、この方はこんなにも魅力的だったろうかと再認識させられる。
「……お帰りなさいませ。お変わりないようで安心いたしました」
「ああ、ありがとう」
そんな風に言われたら、もう二度と呼べないかもしれないと思いながら、いつもよりずっと丁寧に頭を下げる。なんとなく違和感を感じたのか、彼の片眉が微かにぴくりと反応した。
「ちょっとオズベルト。いつになったら、僕を紹介してくれるんだい?」
「あれっ、セシルバ様⁉︎」
「やぁ、ミセス・ヴァンドーム。連絡もなしにお邪魔して申し訳ない。急に暇になったから、オズベルトについてきちゃった」
長躯である旦那様の後ろからひょこりと顔を出したのは、テミアン・セシルバ様だった。第三王女殿下の生誕パーティーで初めて顔を合わせた、旦那様とは旧知の仲らしい社交的な方。改めてお姿を拝見すると、旦那様とはまた違ったタイプの美青年。二人が並ぶとその周りがぱっと華やぎ、これはさぞかし社交界でも騒がれたことだろうと、思わず凝視してしまった。
「僕は止めろと言ったのに、こいつが無理矢理ついて来たんだ」
「だって、あの時は彼女とゆっくり話せなかったからさ」
「そんな必要はないだろう」
「いやいや、親友の大切な女性は僕にとってもそうだからね。もっと深く知りたいし、知ってもらわないと」
くりくりとした大きな瞳でぱちん!とウィンクされ、まるで飴か小石でも飛ばされたかのようにうっ!と後ろにのけ反ってしまった。