白い結婚?喜んで!〜旦那様、その恋心は勘違いですよ〜
「それに旦那様の偏見がなくなれば、私ではない誰かを好きになる可能性も十分に……」
そこまで言いかけて、なぜか言葉が喉につっかえた。真実を伝えたら魔法は解けて、もう二度と私に笑いかけてくれないかもしれない。だって私には、他に彼を惹きつけておける魅力がないから。凄く寂しいけれど、旦那様が前向きになって、心から愛せる運命の相手を探そうという気になれるのなら、私は――。
「そうよ、勇気を出してフィリア!」
しんと静まり返った部屋で一人、固く握った両手の拳を突き上げる。片手じゃあ足りないと思ったから、しっかり両方使って気合いを入れた。
「ちゃんと旦那様に言うのよ!ジャラライラの花の香りが異性を誘惑するという話はまったくの出鱈目だと!」
「へぇ、そうなんだ。それは驚いたな」
「きえええぇ‼︎」
独り言に返事が返ってきたことに驚き、しかもその相手がセシルバ様だったから心臓が止まりかけ、そしてそのすぐ斜め後ろに無表情のマリッサが立っているのを見て泡を吹いて倒れそうになった。
「あはは、凄い声だね」
「これは母譲りの奇声で……って、そんなことはどうでもよくて‼︎」
当たり前のように部屋のカウチソファーに腰掛け、長い脚を優雅に組む。座りなよと促されて、思わずありがとうございますと答えてしまった。
「な、なぜここにセシルバ様が⁉︎ノックも声掛けもなかったわよね⁉︎」
「それは私が、いち早く気配に気付き部屋の外に出たからです」
「そういえばさっき私一人だったわ!」
しんとした部屋で高々と拳なんて掲げている場合ではなかった。それにしても、マリッサは有能が過ぎる。
「なんとなく様子が気になって見に来たんだけど、彼女がこういうポーズで僕に手招きするから、それを真似したんだ」
ぷるんとした自身の唇に人差し指を当て、非常にあざとい視線で私を見つめてくる。
「いくら侍女からの許可があっても、既婚女性の部屋に無断で立ち入るなんて良くないよね。ごめんなさい」
「い、いえ……。そんな謝罪なんて……」
「じゃあ、許してくれる?」
首を傾げてお願いなんて、そんなもの誰が断れるというのだろう。外見の良し悪しにさして興味のない私でも、やっぱり麗しの美青年には敵わない。まんまと頷いてしまい、セシルバ様は嬉しそうに微笑んだ。
マリッサがお茶の支度を始め、私はそろそろと彼の正面に座る。そういえば旦那様をほったらかしだけど、もうすぐ夕食の時間ではないだろうか。
「そうそう、だから君を呼びに来たんだ。使用人から止められたから、こっそりとね」
「そ、それはご足労をおかけいたしました」
旦那様のご友人で侯爵家のご令息ともあれば、そんなことは頼めないに決まってる。セシルバ様は随分気さくな方と、改めてまじまじと見つめてしまった。
「で?」
「はい?」
「さっき君が叫んでいた独り言について、もっと詳しく教えてほしいな」
すっかり頭から抜け落ちていた。そういえば、セシルバ様に大変なことを聞かれてしまったんだった。
「あ、あああれは寝言です!」
「天高く拳を突き上げていたけど」
「夢遊病の一種かと!」
「病気なら一大事だし、すぐオズベルトに知らせないと」
とどめを刺された私はぐうの根も出なくなり、彼はにっこりと笑う。もう観念して、大旦那様から聞いた話を洗いざらい打ち明けた。
そこまで言いかけて、なぜか言葉が喉につっかえた。真実を伝えたら魔法は解けて、もう二度と私に笑いかけてくれないかもしれない。だって私には、他に彼を惹きつけておける魅力がないから。凄く寂しいけれど、旦那様が前向きになって、心から愛せる運命の相手を探そうという気になれるのなら、私は――。
「そうよ、勇気を出してフィリア!」
しんと静まり返った部屋で一人、固く握った両手の拳を突き上げる。片手じゃあ足りないと思ったから、しっかり両方使って気合いを入れた。
「ちゃんと旦那様に言うのよ!ジャラライラの花の香りが異性を誘惑するという話はまったくの出鱈目だと!」
「へぇ、そうなんだ。それは驚いたな」
「きえええぇ‼︎」
独り言に返事が返ってきたことに驚き、しかもその相手がセシルバ様だったから心臓が止まりかけ、そしてそのすぐ斜め後ろに無表情のマリッサが立っているのを見て泡を吹いて倒れそうになった。
「あはは、凄い声だね」
「これは母譲りの奇声で……って、そんなことはどうでもよくて‼︎」
当たり前のように部屋のカウチソファーに腰掛け、長い脚を優雅に組む。座りなよと促されて、思わずありがとうございますと答えてしまった。
「な、なぜここにセシルバ様が⁉︎ノックも声掛けもなかったわよね⁉︎」
「それは私が、いち早く気配に気付き部屋の外に出たからです」
「そういえばさっき私一人だったわ!」
しんとした部屋で高々と拳なんて掲げている場合ではなかった。それにしても、マリッサは有能が過ぎる。
「なんとなく様子が気になって見に来たんだけど、彼女がこういうポーズで僕に手招きするから、それを真似したんだ」
ぷるんとした自身の唇に人差し指を当て、非常にあざとい視線で私を見つめてくる。
「いくら侍女からの許可があっても、既婚女性の部屋に無断で立ち入るなんて良くないよね。ごめんなさい」
「い、いえ……。そんな謝罪なんて……」
「じゃあ、許してくれる?」
首を傾げてお願いなんて、そんなもの誰が断れるというのだろう。外見の良し悪しにさして興味のない私でも、やっぱり麗しの美青年には敵わない。まんまと頷いてしまい、セシルバ様は嬉しそうに微笑んだ。
マリッサがお茶の支度を始め、私はそろそろと彼の正面に座る。そういえば旦那様をほったらかしだけど、もうすぐ夕食の時間ではないだろうか。
「そうそう、だから君を呼びに来たんだ。使用人から止められたから、こっそりとね」
「そ、それはご足労をおかけいたしました」
旦那様のご友人で侯爵家のご令息ともあれば、そんなことは頼めないに決まってる。セシルバ様は随分気さくな方と、改めてまじまじと見つめてしまった。
「で?」
「はい?」
「さっき君が叫んでいた独り言について、もっと詳しく教えてほしいな」
すっかり頭から抜け落ちていた。そういえば、セシルバ様に大変なことを聞かれてしまったんだった。
「あ、あああれは寝言です!」
「天高く拳を突き上げていたけど」
「夢遊病の一種かと!」
「病気なら一大事だし、すぐオズベルトに知らせないと」
とどめを刺された私はぐうの根も出なくなり、彼はにっこりと笑う。もう観念して、大旦那様から聞いた話を洗いざらい打ち明けた。