白い結婚?喜んで!〜旦那様、その恋心は勘違いですよ〜
「そんな誘いは、すべて無視すればいい」
「さすがに、それは非常識過ぎます。本来ならタウンハウスに滞在しているはずで、必然的にお茶会の誘いが増えるのも普通のことです。やっぱり私だけでも今から王都へ……」
「そ、それは許可出来ない!」
彼は歩みを止めると、きゅっと私の腕を掴む。
「だったら僕も一緒に行く」
「旦那様はお忙しいじゃないですか」
「だけど、君を一人で行かせるなんてそんな……」
きりりとした雰囲気はどこへやら、途端に孫を心配するおじいちゃんのような表情で、いやだいやだと首を振る。私だけに見せてくれるこの可愛らしい姿が、もうすっかりクセになってしまった。
「ふふっ、分かりました。お言葉に甘えて、今期はブルーメルでゆっくりさせてもらいます。誘ってくださったご婦人方にはきちんとお返事をして、もう少し落ち着いたらまた参加させていただきますと」
「ああ、その時は必ず僕と一緒に」
「はい、もちろんです!」
にこっと笑うと、旦那様も安堵したように頬を緩める。私がしっかりしていないせいか、彼は過保護というか心配性というか。
屋敷の中にある芝馬場で乗馬を楽しんでいる時も、風で飛んだ麦わら帽子を取る為木に登っている時も、料理に挑戦してみようと包丁を使っている時も、柵や幹や柱の陰からはらはらとした顔でこちらを見つめている。
あれ、お仕事は?と問いたくなるけれど、純粋に私を心配してくれるのは嬉しいことだ。
「あ、そういえば」
再び歩き出す前に、私はぱっと彼に顔を向ける。そうして、きめ細やかな白磁の肌にぺたりと触れた。
「こうして一緒にいられて嬉しいです、オズベルト様!」
唐突な行動は、どうやら旦那様を大いに困惑させてしまったらしい。体の全機能が停止しているように見えて、息をしているのか心配になって思わず鼻の下に指を置いた。
「大変、呼吸が止まってる!」
「い、いや平気だ。むしろ心臓が暴れている」
「では安心ですね!」
止まっていないのなら良いかと、ほっと胸を撫で下ろす。
「フィリアはいつも、本当に急だな」
コートに隠れた首元まで、きっと真っ赤に染まっている。ぱたぱたと手で顔を仰ぐ旦那様に、再びきゅんと心がくすぐられた。
以前、彼から「たまには名前を呼んでほしい」と頼まれたことがある。なんだか照れくさくて普段は旦那様呼びを続けてはいるものの、私だって彼には喜んでほしい。
「その照れたお顔が見たいという打算も、ほんの少しあります」
「ははっ、素直だな」
「淑女たるもの本音は笑顔の奥に隠すものだという母の教えを、ちっとも守れません」
駆け引きや打算は、苦手だし面倒くさい。だけどこれからは、馬鹿正直なだけでは辺境伯夫人は務まらないということも、重々承知している。いきなりは難しいけれど、努力を重ねていけばなんとかなるはず。多分。
「フィリアのそういうところも、とても魅力的だ」
「そうおっしゃるのは旦那様だけです」
「君の美点を理解されないのは癪だが、他の男から気に入られてほしくはない」
「無用な心配ですよ」
むしろ、やきもちを焼くのは私の方。ブルーメルにいると忘れそうになるけれど、旦那様はとんでもなく女性を虜にする色男だ。今のところそんな感情に囚われたことはないので、やきもちを焼いたら自分はどうなってしまうのだろうと、わくわくする気持ちもあったりなかったり。
「さすがに、それは非常識過ぎます。本来ならタウンハウスに滞在しているはずで、必然的にお茶会の誘いが増えるのも普通のことです。やっぱり私だけでも今から王都へ……」
「そ、それは許可出来ない!」
彼は歩みを止めると、きゅっと私の腕を掴む。
「だったら僕も一緒に行く」
「旦那様はお忙しいじゃないですか」
「だけど、君を一人で行かせるなんてそんな……」
きりりとした雰囲気はどこへやら、途端に孫を心配するおじいちゃんのような表情で、いやだいやだと首を振る。私だけに見せてくれるこの可愛らしい姿が、もうすっかりクセになってしまった。
「ふふっ、分かりました。お言葉に甘えて、今期はブルーメルでゆっくりさせてもらいます。誘ってくださったご婦人方にはきちんとお返事をして、もう少し落ち着いたらまた参加させていただきますと」
「ああ、その時は必ず僕と一緒に」
「はい、もちろんです!」
にこっと笑うと、旦那様も安堵したように頬を緩める。私がしっかりしていないせいか、彼は過保護というか心配性というか。
屋敷の中にある芝馬場で乗馬を楽しんでいる時も、風で飛んだ麦わら帽子を取る為木に登っている時も、料理に挑戦してみようと包丁を使っている時も、柵や幹や柱の陰からはらはらとした顔でこちらを見つめている。
あれ、お仕事は?と問いたくなるけれど、純粋に私を心配してくれるのは嬉しいことだ。
「あ、そういえば」
再び歩き出す前に、私はぱっと彼に顔を向ける。そうして、きめ細やかな白磁の肌にぺたりと触れた。
「こうして一緒にいられて嬉しいです、オズベルト様!」
唐突な行動は、どうやら旦那様を大いに困惑させてしまったらしい。体の全機能が停止しているように見えて、息をしているのか心配になって思わず鼻の下に指を置いた。
「大変、呼吸が止まってる!」
「い、いや平気だ。むしろ心臓が暴れている」
「では安心ですね!」
止まっていないのなら良いかと、ほっと胸を撫で下ろす。
「フィリアはいつも、本当に急だな」
コートに隠れた首元まで、きっと真っ赤に染まっている。ぱたぱたと手で顔を仰ぐ旦那様に、再びきゅんと心がくすぐられた。
以前、彼から「たまには名前を呼んでほしい」と頼まれたことがある。なんだか照れくさくて普段は旦那様呼びを続けてはいるものの、私だって彼には喜んでほしい。
「その照れたお顔が見たいという打算も、ほんの少しあります」
「ははっ、素直だな」
「淑女たるもの本音は笑顔の奥に隠すものだという母の教えを、ちっとも守れません」
駆け引きや打算は、苦手だし面倒くさい。だけどこれからは、馬鹿正直なだけでは辺境伯夫人は務まらないということも、重々承知している。いきなりは難しいけれど、努力を重ねていけばなんとかなるはず。多分。
「フィリアのそういうところも、とても魅力的だ」
「そうおっしゃるのは旦那様だけです」
「君の美点を理解されないのは癪だが、他の男から気に入られてほしくはない」
「無用な心配ですよ」
むしろ、やきもちを焼くのは私の方。ブルーメルにいると忘れそうになるけれど、旦那様はとんでもなく女性を虜にする色男だ。今のところそんな感情に囚われたことはないので、やきもちを焼いたら自分はどうなってしまうのだろうと、わくわくする気持ちもあったりなかったり。