元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
「あ、ああ、あのっ……ユ、ユリウス、様……そのっ……!」
廊下から姿を現した執事は、ユリウスの顔を見ると、ひどく狼狽した様子で声を荒げた。
「なんだ、騒がしい」
「それが、とっ、とんでもない事態でございましてっ」
「一体なんだと言うの」
ユリウスとアマンダが怪訝な顔をする中、執事は必死に息を整えた。
「……ブリオット公爵家の、使用人の方がお見えでございまして」
その言葉に、アンジェリカ以外の皆が反応を示す。
当然だ、公爵というのは、貴族階級のトップに君臨する爵位なのだから。
「なに? ブリオット?」
「公爵家の使用人が、なぜうちに?」
「それが…………ブリオットの次期公爵に、フランチェスカ伯爵の、ご令嬢をいただきたいと」
執事の台詞は、フランチェスカ家に旋風を巻き起こした。
ユリウスもアマンダもミレイユも、使用人たちも皆、一瞬息を止めた。
やがて時が動き出すように、室内に歓喜が溢れ始める。
「すごいじゃないか、ブリオット公爵家といえば、名門の名門だ!」
「さすがミレイユ、私たちの可愛い娘!」
「どうしましょう、私ったら、アズール男爵からも求婚されていますのに」
「そんなもんはなんとでもしてやる! 男爵なんぞ公爵とは比べ物にならん!」
「そうよミレイユ、まだ婚姻していないのだからどうにでもなるわ、あなたは安心して、公爵家に嫁ぎなさい」
「はい、ありがとうございます、お父様、お母様」
褒め称える両親に、夢見心地のミレイユ。
しかし、ミレイユが相手なら、ここまで執事は狼狽えないだろう。
「あの、それが、違うのです!」
「なんだ、せっかくの祝いの場に、水を差す気ならクビにするぞ」
そう言ってユリウスが執事を睨んだ時、なにやら廊下が騒がしいことに気づく。
「あのっ、困りますっ、勝手にうろうろされては!」
「お待ちください!」
執事やらメイドやら、いろんな使用人たちの戸惑う声が飛び交う。
やがて革靴の音が鳴り止むと、ミレイユの部屋の前にある人物が現れた。
長い黒髪をローテールにし、左目にモノクル――片眼鏡をかけた長身の男性。
彼は襟にフリルがついた白いブラウスに、黒の上着とズボンを身につけていた。
フランチェスカ家より上等な仕立ての執事服に、公爵家の裕福さを感じたミレイユは、目を輝かせて声がかかるのを待った。
対する彼は、開け放されたドアの前に立ったまま、広い室内を見渡している。
そして左側――ドレッサーのそばにある椅子に座った人物に目を留めた。
廊下から姿を現した執事は、ユリウスの顔を見ると、ひどく狼狽した様子で声を荒げた。
「なんだ、騒がしい」
「それが、とっ、とんでもない事態でございましてっ」
「一体なんだと言うの」
ユリウスとアマンダが怪訝な顔をする中、執事は必死に息を整えた。
「……ブリオット公爵家の、使用人の方がお見えでございまして」
その言葉に、アンジェリカ以外の皆が反応を示す。
当然だ、公爵というのは、貴族階級のトップに君臨する爵位なのだから。
「なに? ブリオット?」
「公爵家の使用人が、なぜうちに?」
「それが…………ブリオットの次期公爵に、フランチェスカ伯爵の、ご令嬢をいただきたいと」
執事の台詞は、フランチェスカ家に旋風を巻き起こした。
ユリウスもアマンダもミレイユも、使用人たちも皆、一瞬息を止めた。
やがて時が動き出すように、室内に歓喜が溢れ始める。
「すごいじゃないか、ブリオット公爵家といえば、名門の名門だ!」
「さすがミレイユ、私たちの可愛い娘!」
「どうしましょう、私ったら、アズール男爵からも求婚されていますのに」
「そんなもんはなんとでもしてやる! 男爵なんぞ公爵とは比べ物にならん!」
「そうよミレイユ、まだ婚姻していないのだからどうにでもなるわ、あなたは安心して、公爵家に嫁ぎなさい」
「はい、ありがとうございます、お父様、お母様」
褒め称える両親に、夢見心地のミレイユ。
しかし、ミレイユが相手なら、ここまで執事は狼狽えないだろう。
「あの、それが、違うのです!」
「なんだ、せっかくの祝いの場に、水を差す気ならクビにするぞ」
そう言ってユリウスが執事を睨んだ時、なにやら廊下が騒がしいことに気づく。
「あのっ、困りますっ、勝手にうろうろされては!」
「お待ちください!」
執事やらメイドやら、いろんな使用人たちの戸惑う声が飛び交う。
やがて革靴の音が鳴り止むと、ミレイユの部屋の前にある人物が現れた。
長い黒髪をローテールにし、左目にモノクル――片眼鏡をかけた長身の男性。
彼は襟にフリルがついた白いブラウスに、黒の上着とズボンを身につけていた。
フランチェスカ家より上等な仕立ての執事服に、公爵家の裕福さを感じたミレイユは、目を輝かせて声がかかるのを待った。
対する彼は、開け放されたドアの前に立ったまま、広い室内を見渡している。
そして左側――ドレッサーのそばにある椅子に座った人物に目を留めた。