元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
馬車が徐々に北上していくと、景色は市街地から郊外に移る。
太陽の光を受けてキラキラ輝く川沿いには、三角屋根の一軒家が建ち並んでいる。
黄緑の草原と、春らしい鮮やかな花々が彩る道は、とても爽やかで美しい。
街中のような賑やかさはないが、どこか懐かしさを感じさせる長閑な町並みだ。
アンジェリカが窓の外を眺めていると、やがて前方に建物が見えてきた。
中央と左右の先端が尖った黒い屋根に、真っ白な長方形の館。
いや、館というよりも、城のようだとアンジェリカは思った。
黒く重厚な門には、金色のライオンの紋章が飾られている。百獣の王を模したブリオットの家紋だ。
アンジェリカたちの馬車に気づいた門番は、一礼すると門を開いた。
驚くほど広大な庭だ。館までの距離が遠い。
綺麗にカットされた芝生に、色とりどりの花が咲く花壇、ところどころに置かれた女神や天使の銅像。
伯爵であるフランチェスカの家も立派ではあるが、やはり最高位の公爵家とは比べ物にならない。
馬車はゆっくりと石畳みの道を進み、館の前で止まった。
執事はドアを開けて先に降りると、アンジェリカに手を差し出しエスコートした。
アンジェリカは地面に降り立つなり、顔を限界まで上げて館を見た。
三階建てなのはフランチェスカ家と同じだが、とにかく横に広く、大きな建物だ。どれだけ多くの使用人を雇っているか窺える。
歴史を感じさせるが、古臭くない、洗練されたデザインの館、その立派な扉が静かに開かれた。
「ようこそ、いらっしゃいませ、アンジェリカ様」
館の外観に見惚れていたアンジェリカは、その声にハッとして前を見た。
すると飛び込んできた光景に、アンジェリカは目と口を丸くして驚いた。
アンジェリカの正面、玄関に向かってずらりと並ぶ使用人たち。
向かって左側に執事、右側にメイドが立ち、一同にお辞儀をしていた。
こんな盛大な出迎えが待っていると思っていなかったアンジェリカは、頭を右往左往させ、挙動不審になっていた。
「初めて来る時は、いらっしゃいませで出迎えよと、次期当主様からのお達しでしたので」
アンジェリカの隣に立った執事は、実に落ち着いた様子で話した。
「次に出迎えられる時は、おかえりなさいませ、アンジェリカ様、奥様、公爵夫人……となるでしょうからね」
執事を見たアンジェリカは、どんな反応をしていいかわからず、困った顔をした。
ついさっきまで娼婦になる予定だったのに、いきなり公爵夫人なんて……やはりなにかの間違いではないかと、アンジェリカは思った。
それでも執事に促され、使用人たちの間にできた、赤い絨毯の道を進む。
その間もアンジェリカは、辺りをキョロキョロと見回している。
高い天井にぶら下がった豪華なシャンデリア、壁面には金の額縁に入った絵画が飾られており、階段や床はピカピカに磨き抜かれている。
太陽の光を受けてキラキラ輝く川沿いには、三角屋根の一軒家が建ち並んでいる。
黄緑の草原と、春らしい鮮やかな花々が彩る道は、とても爽やかで美しい。
街中のような賑やかさはないが、どこか懐かしさを感じさせる長閑な町並みだ。
アンジェリカが窓の外を眺めていると、やがて前方に建物が見えてきた。
中央と左右の先端が尖った黒い屋根に、真っ白な長方形の館。
いや、館というよりも、城のようだとアンジェリカは思った。
黒く重厚な門には、金色のライオンの紋章が飾られている。百獣の王を模したブリオットの家紋だ。
アンジェリカたちの馬車に気づいた門番は、一礼すると門を開いた。
驚くほど広大な庭だ。館までの距離が遠い。
綺麗にカットされた芝生に、色とりどりの花が咲く花壇、ところどころに置かれた女神や天使の銅像。
伯爵であるフランチェスカの家も立派ではあるが、やはり最高位の公爵家とは比べ物にならない。
馬車はゆっくりと石畳みの道を進み、館の前で止まった。
執事はドアを開けて先に降りると、アンジェリカに手を差し出しエスコートした。
アンジェリカは地面に降り立つなり、顔を限界まで上げて館を見た。
三階建てなのはフランチェスカ家と同じだが、とにかく横に広く、大きな建物だ。どれだけ多くの使用人を雇っているか窺える。
歴史を感じさせるが、古臭くない、洗練されたデザインの館、その立派な扉が静かに開かれた。
「ようこそ、いらっしゃいませ、アンジェリカ様」
館の外観に見惚れていたアンジェリカは、その声にハッとして前を見た。
すると飛び込んできた光景に、アンジェリカは目と口を丸くして驚いた。
アンジェリカの正面、玄関に向かってずらりと並ぶ使用人たち。
向かって左側に執事、右側にメイドが立ち、一同にお辞儀をしていた。
こんな盛大な出迎えが待っていると思っていなかったアンジェリカは、頭を右往左往させ、挙動不審になっていた。
「初めて来る時は、いらっしゃいませで出迎えよと、次期当主様からのお達しでしたので」
アンジェリカの隣に立った執事は、実に落ち着いた様子で話した。
「次に出迎えられる時は、おかえりなさいませ、アンジェリカ様、奥様、公爵夫人……となるでしょうからね」
執事を見たアンジェリカは、どんな反応をしていいかわからず、困った顔をした。
ついさっきまで娼婦になる予定だったのに、いきなり公爵夫人なんて……やはりなにかの間違いではないかと、アンジェリカは思った。
それでも執事に促され、使用人たちの間にできた、赤い絨毯の道を進む。
その間もアンジェリカは、辺りをキョロキョロと見回している。
高い天井にぶら下がった豪華なシャンデリア、壁面には金の額縁に入った絵画が飾られており、階段や床はピカピカに磨き抜かれている。