元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
 目覚めたアンジェリカの視界には、白い天井が映っている。
 ――あれ、私……。
 徐々に頭がハッキリしてくると、夢を見ていたことに気づく。
 パチパチと瞬きをしながら、アンジェリカは昨日の記憶を辿った。
 そして、クラウスに再会した後、意識が途切れたことを思い出す。
 ――そうだわ、あれから気を失って……。
 ここはどこなのだろうと、アンジェリカは天井から視線を移動させる。
 すると、すぐそばにある白銀色の髪に気がついた。
 アンジェリカのベッドの端に、体重を預けるようにして休む一人の美青年。彼は両腕に顔を埋めるようにして、すやすやと眠っていた。
 ――クラウス……そう……あなたとまた会えたのは、夢じゃなかったのね。
 アンジェリカは少し驚きながら、静かに上体を起こす。
 もう二度と会えないと思っていた、突然の別れを惜しんだ彼が、今目の前にいる。
 昨日はいろんなことがあって、ゆっくり感動している暇もなかった。
 二人きりの部屋で静かな時が流れる今、アンジェリカは改めて胸を熱くしていた。
 そして、ふと気づく。
 先ほどの夢――実際にあった、過去のやり取りから、クラウスの台詞を思い出す。
 クラウスは、自分のため、そしてアンお嬢様のためと言った。
 そして、永遠の別れではない、とも。

「……クラウス、あなた、もしかして、あの時から――」

 アンジェリカはそっと、クラウスの髪に手を伸ばした。
 すると、パシッと手を掴まれてビクッと驚く。
 眠っていると思っていたクラウスは、ベッドにもたれたまま、アンジェリカを見つめていた。
 その愛おしそうな微笑みが美しく、アンジェリカは思わず頬を染めた。

「お、起きていたの?」
「呼ばれたので……僕の夢でも見てくれていたのですか?」

 アンジェリカは夢の中だけでなく、現実に声を出してクラウスを呼んでいたのだ。
 それを知ったアンジェリカは、なんだか恥ずかしくなってまつ毛を伏せた。
 クラウスは上体を起こすと、改めてアンジェリカを見た。彼は金縁に赤い革張りの椅子に座っている。アンジェリカを運んだ後、つきっきりで見守っているうちに、自分も眠ってしまったのだ。
 アンジェリカはふかふかのベッドの上で、花柄の布団に入っていた。
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