元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
「まだ三十代ならと、男児を産める可能性を捨てきれなかったようです……だが叶わなかった。しかし、ブリオット家の血筋を絶やすことはできないため、仕方なく僕を後継として迎え入れたのです、男児を産めなかったことを罪に思っているのか、今は大人しくしておいでですよ」

 貴族の爵位を継承できるのは、長男だけと決まっている。
 だからマリアンヌは男児を産もうと必死だった。
 加齢のため、ついにあきらめたマリアンヌが許しを出したので、クラウスは正式な後継者としてブリオット家に迎えられたのだった。

「そう、だったの……マリアンヌ様も、辛い思いをされたのね」

 つい、人の気持ちになって考えてしまうアンジェリカを、クラウスは愛おしくも、心配な眼差しで見つめた。

「あなたは、本当に、すぐに人のことを気遣ってしまうのだから……変わっていませんね、そういうところ」
「そ、そうかしら?」
「あの頃も、自分に優しくしたら叱られるだろうと、僕のことを心配してくれた、一番辛いのはあなた自身だったはずなのに」

 気遣うクラウスに、アンジェリカは少し恐縮しながら、布団の縁を摘んだ。

「あの……ありがとう、クラウス、いろいろ話してくれて、疑問が解けたわ」
「それはよかったです」
「だけどまだ一つだけ……どうして私にそんなによくしてくれるの? 私はいつも助けてもらってばかりで、あなたになにもできていないのに」

 この台詞に、クラウスは涼しげな目を丸くした。

「……なにを言ってるんですか、むしろ、僕が先にあなたに助けられたというのに」

 今度はアンジェリカが目を丸くする。一体なんのことだといった感じだ。
 ぼんやりちゃんのアンジェリカにわかってもらうため、クラウスは説明を始めた。

「目の色はともかく、この髪はずいぶんと目立つのでね、銀髪はかなり珍しく、よく嫌がらせを受けました。公爵家の紹介ということで、表立ったいじめはありませんでしたがね」

 実際、クラウスの髪色は本当に珍しいのだ。
 母もそれでいじめられたことがあると言っていた。
 珍しいものに対する拒否反応と、美しさに対する嫉妬が相まって、クラウスはよく嫌がらせを受けた。
 フランチェスカ家の使用人は待遇が悪かったため、ストレスの吐口にしていたのもあるだろう。
< 26 / 100 >

この作品をシェア

pagetop