元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
「なんなりとお申しつけくださいませ、若奥様!」

 シャキッと背筋を伸ばして、やる気満々のルカナ。
 そんな彼女を、アンジェリカはとても可愛らしく思った。
 アンジェリカより頭一つ分背が低く、童顔でまだ子供のように見える。
 母のヴァネッサは大柄で目鼻立ちもハッキリしているので、言われなければ親子だとわからない。

「その、若奥様というのはちょっと……なんだか気恥ずかしいから、アンジェリカでいいわ」
「かしこまりました、アンジェリカ様! これからよろしくお願いいたします!」
「すごいわね、スチュワード候補だなんて……とても若く見えるけど、歳はいくつ?」
「もうすぐ二十になります!」

 それを聞いたアンジェリカは、パッと表情を明るくした。

「まぁ、私も一緒だわ、髪もブラウンで、私と似ているわね」
「ええっ、そんなっ、アンジェリカ様と同じだなんてっ、ルカナのはきったない焦茶で、アンジェリカ様の神秘的な赤茶色の髪とは似ても似つきません!」

 想定外の言葉に慌てふためくルカナだが、アンジェリカは彼女の言葉に驚いていた。
 今までアンジェリカの髪を褒めたのは、クラウスだけだった。
 歳が近い同性に褒められるのは初めてで、アンジェリカは少し照れくさそうに自身の髪を摘んだ。

「神秘的……そんなの、初めて言われたわ」

 じんとした様子のアンジェリカに、目を見開いて茫然とするルカナ。
 ――なにこのお方、可愛すぎん?
 令嬢とは思えぬ素朴な反応に、思わず涎が出そうになったルカナは、覚醒すると右手を振り上げた。

「ルカナこのお方好きです!!」
「コラァ! もうじき公爵夫人になられるお方に、軽々しく好きなんて言うんじゃないよ!」

 高らかに宣言する娘の頭に、鉄拳をくらわせる母。
 ルカナは「イデッ!」と悲鳴を上げ、若干背が縮んだように見えた。
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