元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
「クラウスったら、いつの間にそんな上手な言葉を覚えたの?」
「上手もなにも、僕は思ったことを素直に伝えているだけですよ」

 歯が浮くような台詞も、爽やかな笑顔でさらっと言ってのける。
 その姿は、貴族……というより王子様のようだ。

「だけど、変じゃないならよかったわ、私はミレイユのように愛らしくないから……」
「なぜあのブス――ンッンンヴヴッ……妹君の名前が?」

 うっかり本音が零れたクラウスは、例の如く不自然な咳払いで誤魔化した。が、そばにいたルカナはしっかり聞いていた。
 ――え、今、ブスって言いましたよね?
 耳を疑いながらも受け止めたルカナに対し、アンジェリカは相変わらずわかっていなかった。
 こんな美しいクラウスから、そんな汚い言葉が出るわけがないと信じ込んでいた。
 
「なぜって……なぜ、かしら……? こんな煌びやかな衣装が似合うのは、ミレイユの方だろうと思ったから……」

 クラウスは軽いショックを受けた。
 アンジェリカは幼い頃から、ずっとミレイユと比べられてきた。
 そしてミレイユの方が美しい、愛らしいと、刷り込まれて育ったのだ。
 本来ならアンジェリカこそ持て囃されるに相応しい、見目麗しさを持っているというのに。
 アンジェリカは無意識のうちに、自身を卑下し、ミレイユに劣っていると思わされている。
 こればかりは、すぐにどうにかなるものではない。
 どれほどクラウスの愛が深くても、時間をかけて洗脳を解いてゆくしかないだろう。

「勘違いしないでアンジェリカ、あなたは誰よりも愛らしく、美しい……世界一の女性なのだから」

 クラウスが面と向かって言うと、アンジェリカは恥ずかしそうに目を伏せる。
 アンジェリカが自分を好きになれるよう、クラウスは何度でも彼女自身の魅力を伝えようと決めた。
 そんなやり取りを、すぐそばで見ていたルカナが尋ねる。

「お二人とも、なんだか親しいご様子ですね、以前お会いしたことがあるのですか?」
「ああ、ちょっとね……」

 ルカナの質問を、クラウスは王子……貴族スマイルでふっと受け流す。
 その顔は、先ほどのブス発言を帳消しにするほどカッコイイ。
 ルカナは思わずうっとりしながら、これ以上突っ込むべきではないと察した。
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