元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
そんな二人の様子をそばで見ていたルカナとガルシアが、つつつ……と身体を寄せ合う。
「なんだかラブラブですな、政略結婚じゃなかったんですかい?」
「ですよねっ、ルカナもそう思ってたんですよ、まるで恋愛結婚みたいじゃないですかっ?」
互いにしか聞こえない小さな声で、ルカナとガルシアは同じ意見を言っていた。
「政略結婚でも恋愛に発展することはあるでしょう」
コソコソ話をしっかりキャッチしていたフリードリッヒが、すかさずフォローを入れる。
すると二人はフリードリッヒを見たものの、内緒話を続行した。
「しかし昨日来られたばかりで……もしや一目惚れというやつか!? だとしたらそれもよきですな」
「あり得るかもですね、お二人とも眼福の見目をされておりますからっ」
「まあ……なにはともあれ、夫婦円満に越したことはないということですよ」
囁きながらもうるさい二人に、フリードリッヒが淡々と応じた。
一目惚れ、恋愛結婚……どちらもクラウスには当てはまるため、間違っていると否定はしなかった。
アンジェリカはしばし、クラウスに口づけられた額に手をあて、ぼんやりしていた。
しかしあることを思いつくと、立ち上がって後ろを振り向いた。
「フリードリッヒ、クラウスはいつもあんなふうに忙しくしているの?」
フリードリッヒは右腕を胸元にあて、軽くお辞儀をした。
「はい、アンジェリカ様。クラウス様は自身のお立場をよおく理解しておられます。ですから周りに認められるよう、人一倍の努力をされているのですよ」
フリードリッヒの言っていることが、アンジェリカにはよくわかった。
クラウスは愛人の子であり、半分は貴族の血ではない。
それは彼がブリオットを継ぐとなった以上、隠し通せる事実ではなかった。
使用人として働いていたことはあえて言っていないが、他のことはすべて公にしている。
だからクラウスは、領地の管理や、貴族との関わり、外交に至るまで、積極的に努めるようにしている。
アンジェリカは驚いた。
なぜなら、彼女の父はそんなことをしていなかったからだ。
貴族の公務は、勤めではあるが、絶対ではない。
だから、真面目にやろうとすれば、いくらでも仕事はあるが、手を抜こうとすれば、いくらでも楽できる。
薄々感じてはいたが、やはり自分の父は後者だったのだと、アンジェリカは思った。
社交という名の戯れのパーティーや、趣味ばかりに時間を費やしていた、そんな父の下で生まれたアンジェリカにとって、クラウスはとても眩しく感じた。
「なんだかラブラブですな、政略結婚じゃなかったんですかい?」
「ですよねっ、ルカナもそう思ってたんですよ、まるで恋愛結婚みたいじゃないですかっ?」
互いにしか聞こえない小さな声で、ルカナとガルシアは同じ意見を言っていた。
「政略結婚でも恋愛に発展することはあるでしょう」
コソコソ話をしっかりキャッチしていたフリードリッヒが、すかさずフォローを入れる。
すると二人はフリードリッヒを見たものの、内緒話を続行した。
「しかし昨日来られたばかりで……もしや一目惚れというやつか!? だとしたらそれもよきですな」
「あり得るかもですね、お二人とも眼福の見目をされておりますからっ」
「まあ……なにはともあれ、夫婦円満に越したことはないということですよ」
囁きながらもうるさい二人に、フリードリッヒが淡々と応じた。
一目惚れ、恋愛結婚……どちらもクラウスには当てはまるため、間違っていると否定はしなかった。
アンジェリカはしばし、クラウスに口づけられた額に手をあて、ぼんやりしていた。
しかしあることを思いつくと、立ち上がって後ろを振り向いた。
「フリードリッヒ、クラウスはいつもあんなふうに忙しくしているの?」
フリードリッヒは右腕を胸元にあて、軽くお辞儀をした。
「はい、アンジェリカ様。クラウス様は自身のお立場をよおく理解しておられます。ですから周りに認められるよう、人一倍の努力をされているのですよ」
フリードリッヒの言っていることが、アンジェリカにはよくわかった。
クラウスは愛人の子であり、半分は貴族の血ではない。
それは彼がブリオットを継ぐとなった以上、隠し通せる事実ではなかった。
使用人として働いていたことはあえて言っていないが、他のことはすべて公にしている。
だからクラウスは、領地の管理や、貴族との関わり、外交に至るまで、積極的に努めるようにしている。
アンジェリカは驚いた。
なぜなら、彼女の父はそんなことをしていなかったからだ。
貴族の公務は、勤めではあるが、絶対ではない。
だから、真面目にやろうとすれば、いくらでも仕事はあるが、手を抜こうとすれば、いくらでも楽できる。
薄々感じてはいたが、やはり自分の父は後者だったのだと、アンジェリカは思った。
社交という名の戯れのパーティーや、趣味ばかりに時間を費やしていた、そんな父の下で生まれたアンジェリカにとって、クラウスはとても眩しく感じた。