元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
「そうだったの……ドレスを仕立てるなんてすごいわ、よほどお上手なのね」
「ご興味がおありでしたら、マリアンヌ様が作られたドレスをご紹介いたしますよ!」
「そうね、ぜひ見てみたいわ」
ルカナの提案に、アンジェリカは喜んで頷いた。
「……だけど、それも昔の話ね、彼女が裁縫をしているところを、もうずいぶん見ていませんから」
ヴァネッサは頬に手をあて、ため息混じりに言った。
その暗い表情が、マリアンヌの過去を物語っている。
「……やめて、しまわれたの?」
「ええ……お世継ぎの問題が大きくなるにつれて、彼女はどんどんと気力を失ってゆきましたから。なかなか子に恵まれず、ようやくできたのが女児だったため、一族からも相当冷たくされたようです。若かりし頃の彼女は精神を病み、旦那様に強くあたるようになりました。旦那様が外に癒しを求めても、仕方がないと思ってしまえるほどに……」
当時を振り返りながら話すヴァネッサは、まるで旧友を思うかのようだった。
「ヴァネッサはマリアンヌ様について、ずいぶん詳しいのね」
「あたくしはマリアンヌ様の侍女でございましたので、彼女が十八で嫁いできた時から、スチュワードになるまで、ずっとそばでお仕えしておりました。たまたま歳が同じだったこともあり、友人のように接してくださったのですよ」
笑って答えるヴァネッサに、アンジェリカはなるほどと納得した。
嫁ぎ先で初めてついた同い年の侍女。
まるでアンジェリカとルカナのようだ。
ルカナに親近感を覚えたアンジェリカは、ヴァネッサと親しくなったマリアンヌの気持ちがよくわかった。
アンジェリカの相手は昔馴染みのクラウスだったが、マリアンヌはよく知らない相手との結婚だったため、さらに不安が大きかっただろう。
そんな時、いつもそばにいてくれる同い年の同性がいれば、心細さも紛れるというものだ。
ヴァネッサは屋敷に来たばかりの、若かりしマリアンヌを思い出していた。
精力的に裁縫をしていた、エネルギッシュな美しさに溢れていた彼女を。
だからヴァネッサは、アンジェリカの言葉が嬉しく、かつてのマリアンヌと重ねさえした。
「ご興味がおありでしたら、マリアンヌ様が作られたドレスをご紹介いたしますよ!」
「そうね、ぜひ見てみたいわ」
ルカナの提案に、アンジェリカは喜んで頷いた。
「……だけど、それも昔の話ね、彼女が裁縫をしているところを、もうずいぶん見ていませんから」
ヴァネッサは頬に手をあて、ため息混じりに言った。
その暗い表情が、マリアンヌの過去を物語っている。
「……やめて、しまわれたの?」
「ええ……お世継ぎの問題が大きくなるにつれて、彼女はどんどんと気力を失ってゆきましたから。なかなか子に恵まれず、ようやくできたのが女児だったため、一族からも相当冷たくされたようです。若かりし頃の彼女は精神を病み、旦那様に強くあたるようになりました。旦那様が外に癒しを求めても、仕方がないと思ってしまえるほどに……」
当時を振り返りながら話すヴァネッサは、まるで旧友を思うかのようだった。
「ヴァネッサはマリアンヌ様について、ずいぶん詳しいのね」
「あたくしはマリアンヌ様の侍女でございましたので、彼女が十八で嫁いできた時から、スチュワードになるまで、ずっとそばでお仕えしておりました。たまたま歳が同じだったこともあり、友人のように接してくださったのですよ」
笑って答えるヴァネッサに、アンジェリカはなるほどと納得した。
嫁ぎ先で初めてついた同い年の侍女。
まるでアンジェリカとルカナのようだ。
ルカナに親近感を覚えたアンジェリカは、ヴァネッサと親しくなったマリアンヌの気持ちがよくわかった。
アンジェリカの相手は昔馴染みのクラウスだったが、マリアンヌはよく知らない相手との結婚だったため、さらに不安が大きかっただろう。
そんな時、いつもそばにいてくれる同い年の同性がいれば、心細さも紛れるというものだ。
ヴァネッサは屋敷に来たばかりの、若かりしマリアンヌを思い出していた。
精力的に裁縫をしていた、エネルギッシュな美しさに溢れていた彼女を。
だからヴァネッサは、アンジェリカの言葉が嬉しく、かつてのマリアンヌと重ねさえした。