元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
「あの、マリアンヌ様……道中お気をつけて、お帰り、お待ちいたしております」
アンジェリカはマリアンヌの前で立ち止まると、感情を込めて言葉を送った。
馬車に乗ろうとしていたマリアンヌは、少し間を置いてからチラッとアンジェリカを振り向いた。
「……行ってくるわ、留守をお願い」
マリアンヌはそう言ってすぐに前を向くと、馬車に乗り込んだ。
そっけないが、目を合わせて返事してくれるだけでも、アンジェリカはじーんとした。
「は、はい、行ってらっしゃいませ!」
初めて会った時より距離が縮んでいる気がして、嬉しくなったアンジェリカは、元気よく挨拶をした。
そんな彼女の様子を、クラウスとフリードリッヒは玄関で傍観していた。
明らかに自分より熱い見送りを受けるマリアンヌを見て、クラウスの心に隙間風が吹いた。
「……フリードリッヒ、僕はアンに」
「嫌われていません、大丈夫ですので、そろそろ本当に行ってください」
フリードリッヒに笑顔のまま圧をかけられ、クラウスはため息をつきながら門に向かった。
「……じゃあ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい、気をつけて」
非常にさっぱりとした送り言葉で、アンジェリカはクラウスに手を振った。
クラウスは後ろ髪引かれる思いで、馬車に乗り込むと、ようやく屋敷を後にした。
二人が乗った馬車が見えなくなるのを待って、アンジェリカは屋敷に戻る。
すると玄関に、ルカナ、ヴァネッサ、ガルシアの三人が立ちはだかっていた。
「……行きましたね」
「行かれたわね」
「行きましたな」
順番に言う三人に視線を巡らせると、アンジェリカは胸の前で両手拳を作った。
「それじゃあ、みんな、準備はいい?」
「ルカナはいつでも大丈夫です!」
「あたくしも完璧ですよ!」
「さてと……それでは、アンジェリカ様のお料理大作戦、スタートですぞ!」
「おーーー!!」
四人は同時に片手を振り上げ、気合い十分に声を出した。
アンジェリカがクラウスに早く出かけてほしかったのは、このためだった。
クラウスが屋敷にいる時は、とても安全で、簡単な料理……の手伝いくらいしかできない。
出かけていてもいつ帰ってくるかわからないので、気になってやりにくいのだ。
だからこの一週間は、アンジェリカ……と、彼女の支援隊にとって、とても貴重な時間だった。
クラウスが不在のうちに、本格的な料理まで学ぶ。そしてみんなに振る舞うというのが、アンジェリカの計画だった。
「……くれぐれもお怪我のないよう、ご武運を祈っております」
食堂に急ぐアンジェリカに、フリードリッヒが声をかけた。
するとアンジェリカはくるりと振り返り、ニコッと笑う。
「フリードリッヒも、ぜひ試食にいらしてね、いろんな方の意見が聞きたいから、待っているわ」
フリードリッヒは少し目を丸くすると、困ったように微笑んだ。
アンジェリカの笑顔を見ると、クラウスや他の使用人たちの気持ちもわかるバトラーだった。
アンジェリカはマリアンヌの前で立ち止まると、感情を込めて言葉を送った。
馬車に乗ろうとしていたマリアンヌは、少し間を置いてからチラッとアンジェリカを振り向いた。
「……行ってくるわ、留守をお願い」
マリアンヌはそう言ってすぐに前を向くと、馬車に乗り込んだ。
そっけないが、目を合わせて返事してくれるだけでも、アンジェリカはじーんとした。
「は、はい、行ってらっしゃいませ!」
初めて会った時より距離が縮んでいる気がして、嬉しくなったアンジェリカは、元気よく挨拶をした。
そんな彼女の様子を、クラウスとフリードリッヒは玄関で傍観していた。
明らかに自分より熱い見送りを受けるマリアンヌを見て、クラウスの心に隙間風が吹いた。
「……フリードリッヒ、僕はアンに」
「嫌われていません、大丈夫ですので、そろそろ本当に行ってください」
フリードリッヒに笑顔のまま圧をかけられ、クラウスはため息をつきながら門に向かった。
「……じゃあ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい、気をつけて」
非常にさっぱりとした送り言葉で、アンジェリカはクラウスに手を振った。
クラウスは後ろ髪引かれる思いで、馬車に乗り込むと、ようやく屋敷を後にした。
二人が乗った馬車が見えなくなるのを待って、アンジェリカは屋敷に戻る。
すると玄関に、ルカナ、ヴァネッサ、ガルシアの三人が立ちはだかっていた。
「……行きましたね」
「行かれたわね」
「行きましたな」
順番に言う三人に視線を巡らせると、アンジェリカは胸の前で両手拳を作った。
「それじゃあ、みんな、準備はいい?」
「ルカナはいつでも大丈夫です!」
「あたくしも完璧ですよ!」
「さてと……それでは、アンジェリカ様のお料理大作戦、スタートですぞ!」
「おーーー!!」
四人は同時に片手を振り上げ、気合い十分に声を出した。
アンジェリカがクラウスに早く出かけてほしかったのは、このためだった。
クラウスが屋敷にいる時は、とても安全で、簡単な料理……の手伝いくらいしかできない。
出かけていてもいつ帰ってくるかわからないので、気になってやりにくいのだ。
だからこの一週間は、アンジェリカ……と、彼女の支援隊にとって、とても貴重な時間だった。
クラウスが不在のうちに、本格的な料理まで学ぶ。そしてみんなに振る舞うというのが、アンジェリカの計画だった。
「……くれぐれもお怪我のないよう、ご武運を祈っております」
食堂に急ぐアンジェリカに、フリードリッヒが声をかけた。
するとアンジェリカはくるりと振り返り、ニコッと笑う。
「フリードリッヒも、ぜひ試食にいらしてね、いろんな方の意見が聞きたいから、待っているわ」
フリードリッヒは少し目を丸くすると、困ったように微笑んだ。
アンジェリカの笑顔を見ると、クラウスや他の使用人たちの気持ちもわかるバトラーだった。