元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
「嫌だわ、ヴァネッサ、なにを泣いているのよ」
「う、ううっ、だって、こんなに楽しそうな奥様は一体いつぶりでございましょ、ヴァネッサは嬉しゅうございますぅ!」
「もう、鼻を拭きなさいな、汚いんだから」
マリアンヌがヴァネッサに向ける表情は、冷たい言葉に反して、とても柔らかい。
身分は違えど、二人の絆が垣間見える瞬間だった。
「……どうですか、これが僕の最愛の女性です」
クラウスは少し寂しげでありながら、とても得意げにアンジェリカを紹介した。
短期間で使用人たちだけではなく、マリアンヌの信頼までも得たアンジェリカ。
その様子に、サウロスはにこやかに頷いた。
穏やかなムードで食事が進み、食器の片付けが始まった頃、アンジェリカがクラウスを振り向いた。
「実はデザートも用意してあるの」
「それは、至れり尽くせりですね」
「クラウスのために作ったのよ、甘いもの好きでしょう?」
ふふっと笑うアンジェリカに、クラウスは心臓を鷲掴みにされる。
アンジェリカもクラウスを大事に思っているので、決して蔑ろにしているわけではない。
その気持ちが伝わってきたクラウスは、とても嬉しくなった。
アンジェリカは席を立つと、キッチンに移動してまた戻ってくる。
使用人に頼らずに、わざわざ自分でクラウスのデザートを取ってきたのだ。
「ごめんなさい、クラウスとの約束を破るような形になってしまって……」
コト、と僅かな音を立てて、クラウスの前に差し出されるデザート。
三角型に切り分けられた、チェリーパイ。生クリームが添えられていて、いかにも美味しそうな一品だ。
「これも、あなたが作ったんですか?」
「そうよ、この一週間、ひたすら練習したの、何度も失敗してみんなには迷惑をかけてしまったけど、なんとか形になったかしら」
調理を教えてくれたガルシアに、荒れたキッチンを掃除してくれたヴァネッサ、食材を調達してくれたルカナに、試食をしてくれたみんな。
多くの協力があったから、アンジェリカの料理は上達したのだ。
「……全部、とても美味しかったです、素晴らしい特技ができましたね」
クラウスは寛容な笑顔で、アンジェリカを受け止めた。
彼はやはり甘い。そして、アンジェリカもクラウスなら許してくれると、心のどこかで思っている。
昔からアンジェリカのわがままを聞いてくれるのは、クラウスだけなのだから。
「ありがとう、クラウス、またあなたに食事を作ってもいいかしら?」
「もちろんです……ただ、怪我にはくれぐれも気をつけて」
「大丈夫よ、クラウス……私、この家に来てよかったわ」
クラウスは座ったまま身体ごとアンジェリカの方を向くと、彼女の片手を両手で包んだ。
「そう言っていただけてよかったです、もう二週間もすれば爵位式があるので、そこであなたを僕の正式な婚約者として発表します」
「ええ、わかったわ」
笑顔で迷いなく答えるアンジェリカに、クラウスは目眩のする思いがした。
「う、ううっ、だって、こんなに楽しそうな奥様は一体いつぶりでございましょ、ヴァネッサは嬉しゅうございますぅ!」
「もう、鼻を拭きなさいな、汚いんだから」
マリアンヌがヴァネッサに向ける表情は、冷たい言葉に反して、とても柔らかい。
身分は違えど、二人の絆が垣間見える瞬間だった。
「……どうですか、これが僕の最愛の女性です」
クラウスは少し寂しげでありながら、とても得意げにアンジェリカを紹介した。
短期間で使用人たちだけではなく、マリアンヌの信頼までも得たアンジェリカ。
その様子に、サウロスはにこやかに頷いた。
穏やかなムードで食事が進み、食器の片付けが始まった頃、アンジェリカがクラウスを振り向いた。
「実はデザートも用意してあるの」
「それは、至れり尽くせりですね」
「クラウスのために作ったのよ、甘いもの好きでしょう?」
ふふっと笑うアンジェリカに、クラウスは心臓を鷲掴みにされる。
アンジェリカもクラウスを大事に思っているので、決して蔑ろにしているわけではない。
その気持ちが伝わってきたクラウスは、とても嬉しくなった。
アンジェリカは席を立つと、キッチンに移動してまた戻ってくる。
使用人に頼らずに、わざわざ自分でクラウスのデザートを取ってきたのだ。
「ごめんなさい、クラウスとの約束を破るような形になってしまって……」
コト、と僅かな音を立てて、クラウスの前に差し出されるデザート。
三角型に切り分けられた、チェリーパイ。生クリームが添えられていて、いかにも美味しそうな一品だ。
「これも、あなたが作ったんですか?」
「そうよ、この一週間、ひたすら練習したの、何度も失敗してみんなには迷惑をかけてしまったけど、なんとか形になったかしら」
調理を教えてくれたガルシアに、荒れたキッチンを掃除してくれたヴァネッサ、食材を調達してくれたルカナに、試食をしてくれたみんな。
多くの協力があったから、アンジェリカの料理は上達したのだ。
「……全部、とても美味しかったです、素晴らしい特技ができましたね」
クラウスは寛容な笑顔で、アンジェリカを受け止めた。
彼はやはり甘い。そして、アンジェリカもクラウスなら許してくれると、心のどこかで思っている。
昔からアンジェリカのわがままを聞いてくれるのは、クラウスだけなのだから。
「ありがとう、クラウス、またあなたに食事を作ってもいいかしら?」
「もちろんです……ただ、怪我にはくれぐれも気をつけて」
「大丈夫よ、クラウス……私、この家に来てよかったわ」
クラウスは座ったまま身体ごとアンジェリカの方を向くと、彼女の片手を両手で包んだ。
「そう言っていただけてよかったです、もう二週間もすれば爵位式があるので、そこであなたを僕の正式な婚約者として発表します」
「ええ、わかったわ」
笑顔で迷いなく答えるアンジェリカに、クラウスは目眩のする思いがした。