元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
 それから二週間後の夕刻、ミレイユはアズール家から馬車に乗って出かけた。
 移動中にだんだんと日が傾き、爵位式の会場に着く頃には、静かな夜が訪れていた。
 馬車を降りたヨシュアは、ミレイユを連れて会場に入ると、受付に招待状を提示して中に入る。
 その後ミレイユは、隙を見てヨシュアの元を離れた。
 婚活が最大の目的なので、ヨシュアがそばにいると邪魔だからだ。
 千人ほど集客可能のパーティー会場だ、広く、人も多いため、一度はぐれたらすぐには見つけられない。
 そんな中、ミレイユは辺りを見回し、両親を見つけた。
 会場の窓際、ポツンと立った二人に急いで近づく。

「ミレイユ、どうだ、アズール家での暮らしは」

 ネイビーを基調にした衣装を纏ったユリウスが、愛娘に気づき口を開いた。

「ひどいものよ、使用人のレベルも低いし、自由にドレスも選べない、なによりあんな不男が夫だなんて耐えられないわ」

 両親の前で立ち止まったミレイユが、苦々しい顔つきで答える。
 彼女は瞳と似た色合いの、淡いグリーンのドレスを纏っていた。

「まあ、それはかわいそうにね、ミレイユ……だけど、今日ここで素敵な紳士を見つければいいわ、天使のように愛らしいミレイユなら必ずよい出会いがあるはず」

 宥めるように言ったのは、金色のドレスを纏ったアマンダ。
 三人とも、家が破綻しているにも関わらず、相変わらず豪華な衣装を身につけていた。

「当然、そのつもりよ、アズール男爵はたまたま、タイミングよく求婚されたから、とりあえず受けただけだもの」

 ヨシュアがミレイユに結婚を持ちかけたのは、ちょうどフランチェスカ家が破綻したところだった。
 だからあまりにもタイミングがよく、断ることができなかったのだ。
 そう、それはまるで、示し合わせたかのように――。
 
「お父様とお母様のためにも、条件がよい殿方を探さなくては」
「なんと親孝行な娘よ、うちはすぐに子供ができたが、どちらも女だった……できればうちの借金を肩代わりして、養子に入ってくれる男がいいのだが」
「金さえ払ってくれれば、孫に家を継がせるのもありではなくて、ミレイユが嫁ぎ先でたくさん男児を産めば問題ないはずよ」

 家が破綻していることも忘れ、保証のない夢物語に花を咲かす一同。
 そもそもそれほど魅力的な女性なら、とっくに見そめられているだろうに。
 ミレイユが社交界デビューしたのは十六歳で、現在十八歳。
 この二年間、パーティー三昧で、出会いは山ほどあった。しかし、結果は言うまでもない。
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