元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
「嫌だわ、二人とも気が早くてよ……だけど、そうね、私と結婚するなら、それくらい尽くしてくれなきゃ満足できないわ」

 クスッと笑うミレイユに、賛同の笑みを浮かべる両親。
 そんな彼らの周りには、丸いテーブルが等間隔に並んでいる。
 その上にはご馳走が並んでおり、立食パーティーのような感じになっている。
 めかし込んだ貴族たちは、親しい者同士で会話を楽しみ、場内は賑やかな雰囲気に包まれている。
 爵位式というのは『私が継承しました、これからもよろしくお願いします』と、他の貴族に後継者の顔を知ってもらうための場だ。
 なのでそんなに堅苦しいものではなく、少しかしこまった夜会のような場だ。
 しかし、これほどの会場を貸し切り、人数分のご馳走を用意できるのは、富と権力の証明にもなる。
 やがて、室内の賑やかな雰囲気に変化が起きる。
 会場の一番前に、誰かがやって来たことに気づいたからだ。
 貴族たちは会話をやめ、前方に現れた人物に注目する。
 高い天井の下、大きく立派な壁画の前に、立ち止まったのは一人の紳士だった。
 左右長さが違う黒いマントを纏い、白銀色の衣装に身を包んだ彼は、堂々とした立ち姿で前を見た。

「紳士淑女の皆様、本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。ブリオットの公爵位を継承いたします……クラウス・シモンズ・ブリオットでございます」

 輝く銀髪に、アクアマリンの瞳、抜けるような肌をした彼は、貴族たちに向けて、明確に宣言した。
 まるで絵本の世界から出てきたような、目を疑うほどの美形。
 その容姿に、場内の貴婦人たちは皆釘付けになった。
 そしてそれは、ミレイユも例外ではない。
 少し離れた場所からでも、十分にクラウスの魅力は伝わった。
 ――なんて素敵な方なの……!!
 ミレイユは胸の前で両手の指を組み、あまりの秀麗さにうっとりした。
 中央に立つクラウスの横には、父のサウロスがついている。
 彼は裾の長いグレーの上着に、白いベストとパンツ姿だった。その左胸には、ブリオットの家紋である、ライオンの刻印が入った勲章がついている。
 父の隣で、クラウスは話を続けた。
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