元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
「すでにご存知の方も多いと思いますが、僕は父、サウロスが貴族以外の女性との間に作った子供です。しかし、僕はそれを恥じるつもりはありません。母を愛していたからです。しかし、卑しい血が流れているのも事実です。だから僕は、僕のやり方で、これからも皆様に認めていただけるよう、精進していくしかありません。まだ僕は若く、あまりにも未熟です。教養溢れる成熟した皆様に、ご教授いただくことも山ほどあるでしょう。こんな僕ですが、どうか今後とも、よろしくお願いいたします」

 そこまで話すと、クラウスは貴族たちに向けて、深々とお辞儀をした。
 すると一拍置いて、どこからか、パチパチと手を叩く音がする。
 もう一人、また一人と同調する者が増え、やがて場内は温かな拍手で包まれた。
 やけに和やかなムードに納得できないユリウスは、怪訝な顔つきで辺りを見回した。
 
「なんだ、あの男……妾の子供の分際で、なぜこんなに受け入れられている……!?」

 不満を漏らすユリウスに、たまたまそばに立っていた男性が顔を向けた。

「彼は世継ぎにもらわれた十歳の頃から、公爵としての教養を身につけるため、父親とともに領地の見回りをしていたのだ。それも自分のところだけではなく、他の貴族の領地にも顔を出し、その主の人となりを調べ、喜ぶ品を献上した」

 ユリウスと同年代の金髪紳士は、クラウスについて知っていることを話した。
 それを聞いたユリウスは、驚いて目を見開いた。
 そんな話は初耳だったからだ。
 それもそのはず、クラウスはユリウスには会いに行っておらず、なにも献上していないのだから。
 クラウスは今まで社交界やパーティーにも参加していなかったため、フランチェスカ家と遭遇することもなかった。
 クラウスが意図的に彼らとの接点を避けていた、というのもあるが。

「彼が薬を持ってきてくださったのには、本当に驚きましたわ」  

 話を続けたのは、金髪紳士の隣に立つ、茶髪の上品な婦人だった。

「妻が腰を悪くしていた時、彼が届けてくれた薬がよく効いたのだよ」
「ええ、おかげで今はコルセットもできるようになったわ」

 夫の言葉に、婦人はにこやかに頷いた。
 クラウスは単に金目のものを贈りつけるのではなく、きちんとその人物に必要なものを選んだ。
 裕福でプライドの高い貴族たち、その心を掴むにはどうすればいいか、クラウス自身が考えたやり方だ。
 そうして小さな努力を積み重ねたからこそ、今のクラウスがある。
 
「以来、私はすっかり彼のファンなのだよ」
「ふ、ファ、ン……?」

 ユリウスは引き攣った口元でおうむ返しをした。
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