元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
「彼は子供の頃は下町で育ったらしく、我ら貴族にとっては風変わりな言葉も知っているのだ、実に面白い男だよ」
先ほどクラウスが自己紹介で言っていないことまで知っている。
それはなにも、この夫妻が特別ではない。
クラウスはすでに、ありのままで、貴族社会に認められているのだ。
それを知ったユリウスは、自分たちだけ除け者にされたようで、頭に来た。
なぜフランチェスカ家だけが、クラウスに遠ざけられていたかも知らず。
「そ、そんな取り入るようなことを……」
「取り入るとは自分より力のある人間に、有利になるよう働きかけることだ。ブリオットより位の低い我が家はそれに当てはまらない。君はもう少し教養を身につけた方がいいな、すでに手遅れだろうが」
金髪紳士は鼻で笑うと、吐き捨てるように言った。
ユリウスはなにも言い返すことができず、目を伏せるしかない。
夫がその調子なので、アマンダも黙って下を向いている。
空気を読まず、前を見ているのはミレイユだけだ。
彼女は父が苦言を受けている間も、クラウスに夢中だった。
現公爵である父サウロスから、新たな公爵となる息子クラウスへと、勲章のブローチが受け渡される。
これが爵位継承の儀式だった。
サウロスから勲章を託されたクラウスは、改めて客人の方を向いた。
クラウスの左胸には、百獣の王であるライオンが刻まれた、ブリオットの勲章が輝いている。
これで正式に、クラウスはブリオット公爵となったのだ。
しかし、今日はこれで終わりではない。
むしろクラウスにとっては、この後がメインイベントだった。
「実は本日は、皆様にもう一つ、大事な発表があります」
爵位式としか聞いていなかった貴族たちは、みんな不思議そうに顔を見合わせた。
そんな中、クラウスは会場の外に視線を向ける。
そして扉の手前で、待機していた彼女に合図を送った。
「さあ、おいで」
クラウスは微笑み、扉に向けて左手を差し出す。
すると、呼ばれた彼女が、ゆっくりと会場に足を踏み入れた。
ざわざわと場内が色めき出す。
貴族たちの視線は、クラウスに向かって歩く一人の女性に集中した。
緩やかにカールした赤茶色の髪を揺らしながら、会場の前に現れたのは、ミレイユが見覚えある人物だった。
――へ……?
ミレイユは心の中で間抜けな声を漏らした。
クラウスの美貌に心奪われた彼女は、大事なことをすっかり忘れていたのだ。
姉が嫁いだ先が、彼の元だったことを――。
クラウスは歩み寄る彼女の手を取ると、自分の元へ引き寄せた。
そして腰に手を添え、再び前を見た。
先ほどクラウスが自己紹介で言っていないことまで知っている。
それはなにも、この夫妻が特別ではない。
クラウスはすでに、ありのままで、貴族社会に認められているのだ。
それを知ったユリウスは、自分たちだけ除け者にされたようで、頭に来た。
なぜフランチェスカ家だけが、クラウスに遠ざけられていたかも知らず。
「そ、そんな取り入るようなことを……」
「取り入るとは自分より力のある人間に、有利になるよう働きかけることだ。ブリオットより位の低い我が家はそれに当てはまらない。君はもう少し教養を身につけた方がいいな、すでに手遅れだろうが」
金髪紳士は鼻で笑うと、吐き捨てるように言った。
ユリウスはなにも言い返すことができず、目を伏せるしかない。
夫がその調子なので、アマンダも黙って下を向いている。
空気を読まず、前を見ているのはミレイユだけだ。
彼女は父が苦言を受けている間も、クラウスに夢中だった。
現公爵である父サウロスから、新たな公爵となる息子クラウスへと、勲章のブローチが受け渡される。
これが爵位継承の儀式だった。
サウロスから勲章を託されたクラウスは、改めて客人の方を向いた。
クラウスの左胸には、百獣の王であるライオンが刻まれた、ブリオットの勲章が輝いている。
これで正式に、クラウスはブリオット公爵となったのだ。
しかし、今日はこれで終わりではない。
むしろクラウスにとっては、この後がメインイベントだった。
「実は本日は、皆様にもう一つ、大事な発表があります」
爵位式としか聞いていなかった貴族たちは、みんな不思議そうに顔を見合わせた。
そんな中、クラウスは会場の外に視線を向ける。
そして扉の手前で、待機していた彼女に合図を送った。
「さあ、おいで」
クラウスは微笑み、扉に向けて左手を差し出す。
すると、呼ばれた彼女が、ゆっくりと会場に足を踏み入れた。
ざわざわと場内が色めき出す。
貴族たちの視線は、クラウスに向かって歩く一人の女性に集中した。
緩やかにカールした赤茶色の髪を揺らしながら、会場の前に現れたのは、ミレイユが見覚えある人物だった。
――へ……?
ミレイユは心の中で間抜けな声を漏らした。
クラウスの美貌に心奪われた彼女は、大事なことをすっかり忘れていたのだ。
姉が嫁いだ先が、彼の元だったことを――。
クラウスは歩み寄る彼女の手を取ると、自分の元へ引き寄せた。
そして腰に手を添え、再び前を見た。