元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
「心配しなくてもわたくしたち姉弟は不仲ではないわ、そもそも血の繋がりなんてどうでもいいの、わたくしはクラウスの人となりが気に入っているのよ、これほど骨のある男はなかなかいないもの」

 クラウスとジュリアンヌは腹違いで義理の姉弟になる。
 アンジェリカはクラウスから、ジュリアンヌのことをあまり聞いていなかったので、二人の関係性がわからず、気を揉んだのだ。
 しかし、ジュリアンヌの台詞で、そんな杞憂は吹き飛んだ。

「姉さんはなかなか豪傑でね、女性でありながら後継者にという声もあったほどです。いかがですか、シャラザード家での生活は?」
「それなりよ、同じ公爵位といってもブリオットの方が歴史があるし、好きにさせてもらっているわ。夫とはよく鷹狩りに行くし、馬で駆けるのも爽快よ」
「た、鷹狩りをされるのですか? 馬に乗られて?」
「ええ、狩りによい場所があるの、興味があるなら今度、腕を見せてあげるわ」
「よ、よろしければぜひ……! その際はお弁当を作ってまいりますね!」
「まあ、それは楽しみだわ」

 ジュリアンヌがピシッと扇子を閉じると、顔全体がハッキリ見えた。
 高い鼻に、艶やかながら凛々しい口元をした、ゴージャスな美女。
 どうやらジュリアンヌも母親似のようだ。
 クラウスといい、父親の血はあまり感じられない。

「逞しいのはけっこうですが、お転婆が過ぎて離縁されないように」

 クラウスの台詞に思わずヒヤッとするアンジェリカだが、言われたジュリアンヌは楽しげに笑っている。
 どうやらこんな冗談も許されるくらい、姉弟仲は良好らしい。
 母親は違っても通じ合っているような二人に、アンジェリカは少し羨ましくなった。

「ブリオット家に出戻りすれば、アンジェリカもいるし、それはそれで面白そうね」
「やめなさいジュリー、シェラザード卿が悲しむわ」

 そう言って会話に入ってきたのは、ジュリアンヌと同じ黒髪と赤い瞳を持つ淑女。
 マリアンヌはチャコールブラウンに銀の刺繍が入ったドレスを身につけていた。

「あら、お母様、そちらのドレス、見覚えがありましてよ」
「でしょうね、わたくしが昔仕立てたものだから。ずいぶん久しぶりに袖を通すものでね、今の体型と年齢に合わせ、少しアレンジしたのよ」
「私のドレスは、マリアンヌ様が今日のために仕立ててくださったんですよ」

 穏やかに微笑み合うアンジェリカとマリアンヌ。そんな二人を見たジュリアンヌは、母が良い意味で吹っ切れたのだと悟った。
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