元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。

6、決別と本物の愛

 それから一週間ほど経過したある日、ブリオット家の大広間では、貴婦人たちが集っていた。

「ジュリー、あなた、このところ頻繁にうちに来ているけれど、シェラザード卿はなにも言わないの? 妻が実家に入り浸るなど、あまり褒められたものではありませんよ」

 クリーム色のソファーに腰掛けたマリアンヌが、ティーカップ片手に話す。
 その矛先は、ダークブラウンのローテーブルを挟んだ、向かい側に座ったジュリアンヌだ。
 彼女はティーカップを傾けると、紅茶を一口含みクスリと笑った。

「文句なんて言わないわ、彼はわたくしにベタ惚れですもの。お母様は周りを気にしすぎよ、そんなことだから心を病むんだわ」

 ジュリアンヌはそう言うと、ローテーブルのソーサーにティーカップを置いた。
 あけすけにものを言う娘に、母親はハァと短く息を吐いた。

「まったく、あなたは口が減らない上に、男まさりなものだから、料理や裁縫にもまったく興味がなくって……わたくしはようやく娘ができたような気分だわ、ねぇ、アンジー」

 マリアンヌはそう言うと、隣に座るアンジェリカを見た。
 目配せされたアンジェリカは、クッキーを食べようとした手を止めて、笑顔を返した。
 貴婦人の嗜み、昼食と夕食の間にある、午後の茶会である。

「それはようございました、わたくしも女らしい妹ができて嬉しいもの。アンジーが作ってくれたお弁当は本当に美味しかったわ」

 アンジーという呼び名も、だんだん板についてきた。
 爵位式からすぐに、ジュリアンヌに誘われて、鷹狩りにおともしたアンジェリカ。 
 もちろんアンジェリカは狩りをしないので、お弁当を持って見学に行っただけだ。
 ジュリアンヌの素晴らしい腕と、勇ましい姿に、アンジェリカは感嘆した。
 そしてジュリアンヌは、狩りは男のものだとか、野蛮だとか言う貴族が多い中、共感してくれたアンジェリカを気に入った。
 以来、暇さえあれば、こうして実家に顔を出し、アンジェリカと話に来るのだ。

「お口に合ったようでよかったです、またぜひおともさせてください」

 ふわっと笑うアンジェリカに、ジュリアンヌは席を立って距離を詰める。
 そしてしゃがんでアンジェリカの頬を包むと、唇がつきそうなほど顔を近づけた。
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