元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。

エピローグ

 しっとりとした風がそよぐ、暖かな陽の光の下、三角屋根の教会で、結婚式が行われた。
 扉が開くと、左右にずらりと並んだ、木造の長椅子が見える。その中央にあるロイヤルブルーの道を、若い男女が歩き始める。
 六月の花嫁となった新婦は、左手に白い花束のブーケを持ち、右手を新郎の腕に添えていた。
 そんな彼らを、長椅子に座った者たちは、みんな優しい表情で見守っている。
 親族であるサウロスにマリアンヌ、ジュリアンヌを含むシェラザード家の他、多数の貴族たちが参加し、広い席はすべて埋まった。
 バージンロードが終わると、二人は祭壇の前に辿り着く。
 一段高くなったそこには、祝いの花と蝋燭が飾られている。その間に立った白髭の神父が、穏やかな面持ちで二人を迎えた。

「新郎クラウス、あなたはここにいるアンジェリカを、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います」

 シルバーのタキシードに身を包んだクラウスが、神父に堂々と宣言する。

「新婦アンジェリカ、あなたはここにいるクラウスを、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います」

 アンジェリカもまた、神父に確かな誓いを立てた。
 アンジェリカは裾の長い、純白のウエディングドレスを纏っていた。彼女のしなやかな身体の線を活かした、マーメイド型のドレスは、マリアンヌが丹精込めて仕立てた一品である。
 誓いの言葉が終わると、誓いのキスに入る流れが一般的だ。
 しかし、ここで、神父の助手のような男がやって来る。
 神父と同じ黒い服を着た彼は、教会の端にあるパイプオルガンの辺りから祭壇に現れると、手にしたあるものを神父に渡した。
 ローテールの長い黒髪に、金色の瞳、左目のモノクル。
 見慣れたその容姿に、アンジェリカは「えっ」と、心の中で驚いた。
 ――フリードリッヒ……?
 一瞬、アンジェリカと目が合った彼は、クスッと微笑むとすぐさま身を引いた。
 神父が受け取ったのは、手のひらサイズの白いクッションのようなもの。
 その中央には、リボンに結ばれた指輪があった。
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