Gift
プロローグ
はじまり 研究所職員のボイスメモ
このボイスメモはとある研究所職員による歴史的資料です
ー何から話せばよいのだろうか。取り敢えず、私は今日歴史的瞬間に立ち会ったらしき事を報告しておこう。
私の子供の頃は、ただの陰謀論者の戯言として片付けられてきたはずの「世界2周目説」。それが本当…いやそれを上回る真実だったなんて、この驚きはどれだけ著名な詩人でも表せないだろう。
ー正直不安で仕方がない。私は先日、政府からの命令でプロジェクト・ビックバンのリーダーを任された。馬鹿馬鹿しい。人工的なビッグバンによってもう一つの宇宙を創るプロジェクト?金の無駄遣いだと心から思う。
私のようなれっきとした国家公務員でさえ、妻が働きに出て、食費や日々の生活を切り詰めなければいけない有様だ。世界政府ももっと金の使い所があるだろうに。
ー当初の想定ではありえない事が起きた。何回目かの大型爆発実験で、生命が誕生したのだ。小さな命の種は培養器にいれるとすくすく育ち、数日で立派な子供になってしまったのだ体を調べてみたところ、人間に限りなく近いことだけはわかった。私達は彼…いや彼女か?とにかくそれのことを、シーニャと呼ぶことにした。
それと最近反政府の奴らがどうにもきな臭い。間違っても戦争なんかにならなければいいのだが。
ーお偉いさん方にシーニャの存在を伝えた。要観察といったところだろうか。
シーニャには性別がない。血液型や遺伝配列も見たことのない、まるでデタラメのようなものしか分からないのだ。
シーニャはまた、驚くほどに利発であり、教えた事を掃除機のように吸い込んでゆく。昨日はちょうど生まれて1ヶ月だったのだが、私のことを指さして「おとうさん」といったのだ。私には子供がいないが、5歳の娘の話ばかりする同僚の気持ちが分かった気がした。
ー建設途中のバベルという建物がある。外宇宙開拓のための宇宙要塞だそうだ。
先日視察に行ったのだが、あれはとんでもないものだった。高度なセラミック技術をふんだんに使っていて、理論上はどんな衝撃にも耐えられるのだそうだ。
シーニャは相変わらずである。最近は公用語を使いこなし、また他の研究員からピアノや数学を習い始めていた。もうすでにシーニャは我々プロジェクトメンバーの一員となった。
プロジェクトは中々うまくいかないものだが、これまでの苦労は無駄にしたくないものである。
ーついに大陸の北方での武装蜂起が始まってしまった。バベルは突貫工事で完成し、ビックバン・プロジェクトに至っては、中止となった。
北方はもともと反政府色が強い。今回の武装蜂起では北方の亡国が開発した武器が利用されるという噂もある。どうなってしまうのだろうか。
シーニャの事だが、なんと2年ですでに思春期の青年ほどの姿格好になってしまった。我々とも対等に話し、大学レベルの勉強を学んでいる。そしてたまに政府の職員が会いに来る。シーニャはその不思議な生い立ちもある。できればそっとしておいて欲しいと思うのだが…
ー一番悪い予感が当たった。政府の意向でシーニャはプロパガンダとして、神の子として祀り上げられた。冗談ではない。いくら優れていても、未確認生命体だとしても、ひとりの子どもだ。我々の仲間なのだ。
ー首都から数キロ離れたところに核が落とされた。大勢が死んだ。もう、何を話したらいいのかも分からない。研究員の家族も何人か死んだ。私の妻も死んだ。何もしてやれなかった。研究所は移転された。まるで今の研究所は抜け殻のようだ。そんな中でもシーニャだけが私たちの希望となった。
ーもう地球は終わりだ。すでに数か所に核や生物兵器が落とされ、バイオテロによる汚染も深刻となった。
もう研究所には私とシーニャしかいない。シーニャは私達の、世界の最後の希望だ。
私は基地からロケットを強奪し、シーニャを乗せて飛び立たせた。宇宙要塞バベルへと。
もうこの地球も長くはない。きっと滅びてしまうだろう。
しかし私には少しの確信があった。シーニャならやってくれるだろうと。また世界は一周して12周目にでも入るのであろうと。
ー何から話せばよいのだろうか。取り敢えず、私は今日歴史的瞬間に立ち会ったらしき事を報告しておこう。
私の子供の頃は、ただの陰謀論者の戯言として片付けられてきたはずの「世界2周目説」。それが本当…いやそれを上回る真実だったなんて、この驚きはどれだけ著名な詩人でも表せないだろう。
ー正直不安で仕方がない。私は先日、政府からの命令でプロジェクト・ビックバンのリーダーを任された。馬鹿馬鹿しい。人工的なビッグバンによってもう一つの宇宙を創るプロジェクト?金の無駄遣いだと心から思う。
私のようなれっきとした国家公務員でさえ、妻が働きに出て、食費や日々の生活を切り詰めなければいけない有様だ。世界政府ももっと金の使い所があるだろうに。
ー当初の想定ではありえない事が起きた。何回目かの大型爆発実験で、生命が誕生したのだ。小さな命の種は培養器にいれるとすくすく育ち、数日で立派な子供になってしまったのだ体を調べてみたところ、人間に限りなく近いことだけはわかった。私達は彼…いや彼女か?とにかくそれのことを、シーニャと呼ぶことにした。
それと最近反政府の奴らがどうにもきな臭い。間違っても戦争なんかにならなければいいのだが。
ーお偉いさん方にシーニャの存在を伝えた。要観察といったところだろうか。
シーニャには性別がない。血液型や遺伝配列も見たことのない、まるでデタラメのようなものしか分からないのだ。
シーニャはまた、驚くほどに利発であり、教えた事を掃除機のように吸い込んでゆく。昨日はちょうど生まれて1ヶ月だったのだが、私のことを指さして「おとうさん」といったのだ。私には子供がいないが、5歳の娘の話ばかりする同僚の気持ちが分かった気がした。
ー建設途中のバベルという建物がある。外宇宙開拓のための宇宙要塞だそうだ。
先日視察に行ったのだが、あれはとんでもないものだった。高度なセラミック技術をふんだんに使っていて、理論上はどんな衝撃にも耐えられるのだそうだ。
シーニャは相変わらずである。最近は公用語を使いこなし、また他の研究員からピアノや数学を習い始めていた。もうすでにシーニャは我々プロジェクトメンバーの一員となった。
プロジェクトは中々うまくいかないものだが、これまでの苦労は無駄にしたくないものである。
ーついに大陸の北方での武装蜂起が始まってしまった。バベルは突貫工事で完成し、ビックバン・プロジェクトに至っては、中止となった。
北方はもともと反政府色が強い。今回の武装蜂起では北方の亡国が開発した武器が利用されるという噂もある。どうなってしまうのだろうか。
シーニャの事だが、なんと2年ですでに思春期の青年ほどの姿格好になってしまった。我々とも対等に話し、大学レベルの勉強を学んでいる。そしてたまに政府の職員が会いに来る。シーニャはその不思議な生い立ちもある。できればそっとしておいて欲しいと思うのだが…
ー一番悪い予感が当たった。政府の意向でシーニャはプロパガンダとして、神の子として祀り上げられた。冗談ではない。いくら優れていても、未確認生命体だとしても、ひとりの子どもだ。我々の仲間なのだ。
ー首都から数キロ離れたところに核が落とされた。大勢が死んだ。もう、何を話したらいいのかも分からない。研究員の家族も何人か死んだ。私の妻も死んだ。何もしてやれなかった。研究所は移転された。まるで今の研究所は抜け殻のようだ。そんな中でもシーニャだけが私たちの希望となった。
ーもう地球は終わりだ。すでに数か所に核や生物兵器が落とされ、バイオテロによる汚染も深刻となった。
もう研究所には私とシーニャしかいない。シーニャは私達の、世界の最後の希望だ。
私は基地からロケットを強奪し、シーニャを乗せて飛び立たせた。宇宙要塞バベルへと。
もうこの地球も長くはない。きっと滅びてしまうだろう。
しかし私には少しの確信があった。シーニャならやってくれるだろうと。また世界は一周して12周目にでも入るのであろうと。
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