年下男子を好きになったら 〜戸惑い女史とうっかり王子の、なかなか始まらない恋のお話〜
「あ、ごめ……」
「……あんな奴らばっかりじゃありませんから」

触れたその手が、ギュっと握りしめられる。
驚いてパッと顔を上げると田中君は真剣な眼差しで、でもどことなく悔しそうな表情で彼はこちらを見つめている。

「あんな奴らばかりじゃなくて、俺を含めて小西さんが来てくれて嬉しいって思ってる人もたくさんいますから。だから、営業部のこと、嫌いにならないでください。俺も、全力でサポートしますから」
「……サポートするのはこっちの仕事だよ。でも、ありがとう。これからも、宜しくね?」

田中君の声が胸に沁みる。
けど、今はそんな優しい言葉を向けられてしまうのは、ダメだ。ギリギリのところで保たれていた感情のダムは決壊し、みるみるうちに視界が水の膜で歪んできてしまう。

「ご、ごめんね。なんか涙もろくって……」

逆効果とは思いつつ、必死に泣くまいと目をシパシパ瞬かせながら苦笑いをしてみせる。

「小西さんは、頑張ってますから。……俺はそれをちゃんと知ってますから」

震える声の私に、田中君はそうポツリと呟く。
そして遠慮がちに「俺は、知ってますから」そう再度呟いてそっと私の頭を撫でてくれると、落ち着くまでずっと側にいてくれたのだった。
< 12 / 34 >

この作品をシェア

pagetop