年下男子を好きになったら 〜戸惑い女史とうっかり王子の、なかなか始まらない恋のお話〜
後日、例の若手社員達はあの給湯室での勢いはどこへやら、シュンとした表情で謝罪をしにやってきた。
「小西さん、スミマセンでした」
「え?なんのこと?」
こちらもいつまでも根に持つつもりは無いので、そんな言葉をサラリと受け流す。ホッと安堵した様に顔を見合わせる彼らからは、当初の棘のようなものはもう感じられなっていた。
「よくわかんないけど、これからもよろしくね?」
そうニッコリと微笑むと、私はようやくまあまあそれなりに、適切な職場関係を築けそうな予感がするのだった。
ーー
あの日の休憩室。
そこでの出来事は、思い返せば今でも恥ずかしさに顔から火が出そうになってしまう。
実は今でも納得がいかない人事移動に対する思いや、覚悟していたとはいえ同じ課の同僚から望まれていないことを聞かされたそのやりきれなさと……色々感情が爆発して久しぶりに涙してしまった私を、田中君は静かに頭を撫でてくれながら見守っていてくれていた。
「……ごめんね。ほんと、変なところばかり見せちゃって」
「移動が決まってからずっと慌ただしかったでしょうから、心がちょっとお疲れ気味だったんですよ。……そんな時もありますよね」
漸くして、ぐしゅぐしゅ鼻を啜りながら謝罪をすると、彼は優しく微笑んでくれたのだった。
「それよりも俺こそ、つい馴れ馴れしく頭なんて撫でちゃってすみません……」
田中君は急にアタフタと手をバタつかせる。
「あの、でも、変な下心とかはないんで!ほんと、やましい気持ちとかはないんで!だからほんと、ほんとに警戒しないで下さいね?!」
しどろもどろに言い訳をして慌てる彼がなんだか可笑しくて、さっきまでのしんみりした気持ちがなんだか一掃されていく。
「あの、ね。今のことは誰にも言わないでね?人前で泣いたなんて恥ずかしいから」
缶コーヒーを2つ買って席へと戻る途中、そんな事をお願いをすると、田中君は任せておけと言わんばかりに「もちろんですとも!」と頷いた。
「でもこれから先、こんな事があってもなくても、俺をガンガン頼って下さいね?年下ですけど、営業部ではこれでも先輩なんで!」
「うーん。じゃあ、ほどほどに頼っちゃおうかな」
「小西さんになら特別に、次に泣きたくなった時も俺の胸をお貸ししますからね!」
おまけに「ここはいつでも小西さん専用ですから!」なんて、胸を指差しパチリとウインクを投げかけてくる。
なんて魅力的なその表情!
冗談とは言えそんな微笑みを向けられてしまえば、なぜだか私の胸はトクリと跳ねてしまうのだった。
――
「今日も頑張ってる小西さんにご褒美あげますから、手を出して?」
そしてそれから田中君は何故か事ある度に、とびきりの笑顔と共に彼の机にある可愛らしいガラス瓶に入った小さな飴をくれるようになっていた。
あんなことを言われて以来、妙に彼の事を意識してしまっている私は、「名付けて、褒めて育てる作戦ですよ」と、軽率にもキラキラした眩しい微笑みを送る田中君から飴を手渡される度に、自重できずに胸がついついキュンとしてしまっていた。
あの時の慰めの言葉といい、今のこの笑顔といい、他意は無いとはわかっている。ただその場に居合わせた隣の席に座る同僚としての彼なりの優しさ。それだけだろう。
けれどもほんのちょっと、もしかしたら少しだけでも、特別な何かが含まれているのではないか。
迂闊にもそんな淡い期待を抱いてしまいそうになってしまう。
それほどまでに田中君の笑顔は、貰った飴みたいに甘くて酸っぱくて、一瞬で虜になってしまう程に、とてもとても魅力的なのだった。
『弟みたいだ』、なんて印象だったのに。
いい年してほんの数日、ちょっと優しくしてくれた6歳も年下の男の子にときめくだなんて、我ながらバカみたいだとは思っている。
でも覚えることはまだまだ沢山あって、精神的にヘトヘトなこの毎日。一服の清涼剤として、ちょっとくらい夢見ちゃってもいいよね?と、田中君からの飴を舐めるたび、私はほんの少しだけ、甘い空想に思いを馳せてしまうのだった。
――
「小西さん、スミマセンでした」
「え?なんのこと?」
こちらもいつまでも根に持つつもりは無いので、そんな言葉をサラリと受け流す。ホッと安堵した様に顔を見合わせる彼らからは、当初の棘のようなものはもう感じられなっていた。
「よくわかんないけど、これからもよろしくね?」
そうニッコリと微笑むと、私はようやくまあまあそれなりに、適切な職場関係を築けそうな予感がするのだった。
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あの日の休憩室。
そこでの出来事は、思い返せば今でも恥ずかしさに顔から火が出そうになってしまう。
実は今でも納得がいかない人事移動に対する思いや、覚悟していたとはいえ同じ課の同僚から望まれていないことを聞かされたそのやりきれなさと……色々感情が爆発して久しぶりに涙してしまった私を、田中君は静かに頭を撫でてくれながら見守っていてくれていた。
「……ごめんね。ほんと、変なところばかり見せちゃって」
「移動が決まってからずっと慌ただしかったでしょうから、心がちょっとお疲れ気味だったんですよ。……そんな時もありますよね」
漸くして、ぐしゅぐしゅ鼻を啜りながら謝罪をすると、彼は優しく微笑んでくれたのだった。
「それよりも俺こそ、つい馴れ馴れしく頭なんて撫でちゃってすみません……」
田中君は急にアタフタと手をバタつかせる。
「あの、でも、変な下心とかはないんで!ほんと、やましい気持ちとかはないんで!だからほんと、ほんとに警戒しないで下さいね?!」
しどろもどろに言い訳をして慌てる彼がなんだか可笑しくて、さっきまでのしんみりした気持ちがなんだか一掃されていく。
「あの、ね。今のことは誰にも言わないでね?人前で泣いたなんて恥ずかしいから」
缶コーヒーを2つ買って席へと戻る途中、そんな事をお願いをすると、田中君は任せておけと言わんばかりに「もちろんですとも!」と頷いた。
「でもこれから先、こんな事があってもなくても、俺をガンガン頼って下さいね?年下ですけど、営業部ではこれでも先輩なんで!」
「うーん。じゃあ、ほどほどに頼っちゃおうかな」
「小西さんになら特別に、次に泣きたくなった時も俺の胸をお貸ししますからね!」
おまけに「ここはいつでも小西さん専用ですから!」なんて、胸を指差しパチリとウインクを投げかけてくる。
なんて魅力的なその表情!
冗談とは言えそんな微笑みを向けられてしまえば、なぜだか私の胸はトクリと跳ねてしまうのだった。
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「今日も頑張ってる小西さんにご褒美あげますから、手を出して?」
そしてそれから田中君は何故か事ある度に、とびきりの笑顔と共に彼の机にある可愛らしいガラス瓶に入った小さな飴をくれるようになっていた。
あんなことを言われて以来、妙に彼の事を意識してしまっている私は、「名付けて、褒めて育てる作戦ですよ」と、軽率にもキラキラした眩しい微笑みを送る田中君から飴を手渡される度に、自重できずに胸がついついキュンとしてしまっていた。
あの時の慰めの言葉といい、今のこの笑顔といい、他意は無いとはわかっている。ただその場に居合わせた隣の席に座る同僚としての彼なりの優しさ。それだけだろう。
けれどもほんのちょっと、もしかしたら少しだけでも、特別な何かが含まれているのではないか。
迂闊にもそんな淡い期待を抱いてしまいそうになってしまう。
それほどまでに田中君の笑顔は、貰った飴みたいに甘くて酸っぱくて、一瞬で虜になってしまう程に、とてもとても魅力的なのだった。
『弟みたいだ』、なんて印象だったのに。
いい年してほんの数日、ちょっと優しくしてくれた6歳も年下の男の子にときめくだなんて、我ながらバカみたいだとは思っている。
でも覚えることはまだまだ沢山あって、精神的にヘトヘトなこの毎日。一服の清涼剤として、ちょっとくらい夢見ちゃってもいいよね?と、田中君からの飴を舐めるたび、私はほんの少しだけ、甘い空想に思いを馳せてしまうのだった。
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