年下男子を好きになったら 〜戸惑い女史とうっかり王子の、なかなか始まらない恋のお話〜
そしてそれから数日後。

「小西さん、昨年度の売上明細のファイル持ってきてもらえるかな?」

相変わらず輝くばかりの笑顔の課長が、またしても面倒な問い合せをしにやってきた。

私の醸しだす、謎のベテラン感にまたしても惑わされてしまったのかなんなのか。
課長、何度も言う様ですけど、私まだこの課にきてまだ2週間足らずなんですからね?
今年度の書類すらままならないのに前年度って、そんなの存在すら知らないよ!
すげなく「そんなものは知らない」と断るのもアリなのだが、ここは1つ今後の査定を考慮して、一応労働意欲があることだけはアピールしておこうと考えを切り替える。

隣のシマにいる田島さんに咄嗟に助けを求めようと視線を送るも、またしても彼女は電話応対中。

た、田島さぁ〜ん!!今回もタイミング悪し!!

本日は頼れる田中君も出張中で不在。
どうしようかと思案していると、課長は「そうか」と今さらながら何かを気づいた様子を見せる。

「ごめん、まだ小西さんは知らなかったか……。じゃあ丁度いいから今から場所を案内しようか?」
「えっと、すみません。じゃあ……」
「あっ課長。今から俺、書庫に行くんでついでに小西さんに案内してきますよ〜?」

課長直々のその提案にありがたく従おうと席を立とうとすると、思いがけない言葉が聞こえてきた。
隣を振り向いてみれば、田中君とは逆側の席でいつもは我関せずってな顔でツンと澄まして座っているその声の主、高橋君が立ち上がりながらこちらを振り向き手を上げている。

「そうか。じゃあお願いしようかな?」
「了解でーす。じゃ小西さん行きますよ?」

あとは宜しく〜なんて手を振る課長に見送られつつ高橋君に促されると、その後を急いで追いかけた。

――

書庫内のファイルの場所を教えてもらった帰り道、足速に前を歩く高橋君にお礼を言う。

「忙しいところありがとうございました」
「……まあ俺、万が一の時には手助けするよう、田中から小西さんのことを託されましたからね。約束は守らないといけないかな?って思って」

振り返るってこちらを見つめる高橋君の言葉に、思わず耳を疑ってしまう。えっ田中君、自分の不在時の段取りまでしてくれてたの……?
不測の事態まで考えてくれていた、その優しい配慮にときめくやら、そこまで考えて頂くのは申し訳なく思うやら。 

「まあ、それになにより田中じゃないですけど、頑張ってる人を見てるとやっぱり応援もしたくなりますしね」

一人ぐるぐる考え込んていると、高橋君は茶目っ気たっぷりな微笑みをこちらに向けてくる。

……あら?あらららら?
田中君の明るく元気な笑顔も可愛らしいけど、クールな表情の高橋君の、珍しくちょっと軽薄な感じの笑顔もまた趣きが異なって目の保養!
隣の席とはいえ今まで特に会話が無かったので、とっつきにくい人なのかと思っていたら、なんだ結構いい子なんじゃない?
ちょっと見惚れてホゥと思わずため息をつくと、高橋君は人の顔を覗き込み、ニヤニヤしながら冗談とも本気ともわからないことを言う。

「あっ?ちょっと俺にときめいちゃいました?ダメですよ、俺、好きな娘いるんで」

……チャラい!!
外見にそぐわず、なんかチャラいぞ?!
一瞬見惚れた自分を猛省する。

「もうっ!年上をからかわないの!!」
「えー小西せんぱい、こーわーいー」

ちょっと本気で怒ってしまうが、そんな態度もどこ吹く風。高橋君は愉快そうにおどけている。

その後自席に戻るまでの間に高橋君とはすっかり打ち解け雑談を交わすまでに至ったものの、その一方で私は田中君に早くお礼が言いたくて、彼の帰社時間が朝から既に待ち遠しくて何となくソワソワしてしまうのだった。
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