年下男子を好きになったら 〜戸惑い女史とうっかり王子の、なかなか始まらない恋のお話〜
「ふーん。そうなんだ?でも別に、年齢なんて関係ないんじゃねえの?要するに仕事に一所懸命取り組んでさえくれれば、なあ?」

……かなりあっさりとした、けれどどこか仕事をサボる彼らを制するようなそんな声色。
そして田中さんはさっさとコーヒーを買って休憩室を出てくると、こちらにチラリと視線を送った。

「まあ、女性も色々と大変だよな」

小声でボソッと囁くと、あんな奴ら放っておいて早く戻って仕事しようぜ!とニカリと笑ってみせるのだった。

日頃から、仕事ができる割には言動が雑で子供っぽいと感じていた先輩からの思わぬ労りのその言葉。びっくりすると同時になんだか少し泣きそうになってしまう。

よく言ってくれた!わかってらっしゃる!!!
仕事なんだから、年齢なんて関係ないんだよ!
仕事に必要なのは若さや美貌なんかじゃないんだよ!

『三バカに対してピシャリと言ってやった田中さんの侠気と、その後の後輩にみせた優しさに、ボーナス査定5000点!』

少女漫画ならばここで恋が始まるところだろうが、生憎いまいち幼い印象の田中さんはこちらの恋愛対象範囲外。残念なことに恋のセンサーはピクリともしない。
けれどその代わり、私の中の「信頼できる先輩ランキング」はぐんぐん上昇。見事第一位へと輝いたのだった。

溜飲が下がってすっかり気分を良くした私は、ドアの向こうの同期(三バカ)に向けて密かにガッツポーズをとってやる。
そしてすっかり頼れる先輩と位置づけされた田中さんの後を追うように、急ぎ足で仕事へと戻るのだった。

――

そしてそれから数週間後。辞令交付の通達の日がやってきた。

ついに発表となった噂のお局様の正体。
それは新入社員研修でお世話になった、総務課の小西さんのことだった。

「え……。小西さん、なの?」

その意外すぎる人事に思わず声が漏れてしまう。

「入社以来ずっと総務畑だ」と研修中に話をしてくれたことがある彼女は、世の中の仕組みすら分かっているのか怪しい所のヒヨッコの私に社会人としての心構えや仕事のやり方など基礎中の基礎を、丁寧に教えてくれた実に優しい人だった。
派手さはないがふんわりとした可憐な印象。
穏やかながらデキる大人の女性といった雰囲気で、当時の私は密かに彼女に憧れていたものだった。
そんな彼女がまさか営業1課に移動になるとは……。何が起きるのかわからない、それが社内人事ってやつなのだろう。
けれど積み上げてきた総務課でのキャリアを強制的にリセットさせられて、この部署でまたイチからやり直しだなんて、そんなのあまりにも気の毒ではないか。

よし!ここは一つ、あの時のご恩返しといこうではないか!!
そう意気込んで教育係を買ってでた私は、張り切って小西さんに引き継ぎ作業をするのだった。

年下の私に教わりながらも一所懸命にメモを取り、早く仕事を覚えないとねと小西さんは恥ずかしそうに微笑んでみせる。
残念ながら私の事を覚えていてはいなかった様だけれど、一年ぶりに話をした彼女は相変わらず穏やかそうにふんわり笑いながら、どこか大人の雰囲気を漂わせている。

縁の下の力持ち、総務で仕事をバリバリこなしていただけあって引き継ぎ作業も順調で、打てば響く様に1つ教えれば何個も質問が返ってくる。

その性格を表したような温和そうな柔らかな表情と、仕事ができて頼れるしっかり者のお姉さんというの一面が良い意味で相反していていて興味深く、同性ながらに思わず見惚れてしまう。

「はあ~やっぱり素敵。こんな大人になりたいわあ。」

そんな訳で一年ぶりに、私はまたしてもすっかり彼女のファンになってしまっているのだった。

ーー
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