年下男子を好きになったら 〜戸惑い女史とうっかり王子の、なかなか始まらない恋のお話〜

太陽の王子と宵闇の貴公子

営業1課に配属されて一ヶ月を過ぎ、遅まきながらの歓迎会真っ最中。

田島さんら女性陣で固まって座卓を囲んでいると、課長がニコニコと相変わらず輝く笑顔でこちらにピョコンと飛び込んできた。

「俺も女子と飲みたあーい!あっ!小西さんもいるぅ!!じゃあ隣に座っちゃおーっとっ。」

ほろ酔い加減の課長はなにやらゴキゲンな様子。
まあこれもまた、飲みニケーションってやつよねと、仕方なしに席を詰めようかと腰を上げると、

「かちょお〜。そっちに行かないで、こっちで飲みましょうよお〜。俺と一緒に飲みましょうよお〜!」

遠くの席から聞こえてきたのは、田中君から課長への熱いラブコール。
そして田中君はそれだけでは足りぬとばかりに課長のところまでわざわざやって来て、その腕をグイグイ引っ張り、「今日は課長を独占しちゃいますからね、俺!」と言いながら、半ば引きずるように課長を向こうの席へと連れて行くのだった。

「田中君、課長にあんなにじゃれついて……。ほんとに課長のこと好きなんだね」

なんて話をしていると、そこから何故か田中君の隣の席の、私の話に発展するのだった。

「ほんと小西さんがうらやましい!!太陽の王子と夕闇の貴公子との間で仕事ができるなんて!」
「え?太陽の王子と夕闇の貴公子ぃ?」

なんじゃそりゃ。
それって流行りのライトノベル的な何か??
思わず疑問を口にしてしまうと、周囲から「ええ?小西さん知らないんですか?」との驚きの声があがる。

太陽の王子と夕闇の貴公子。
聞けばそれは田中君と高橋君の隠れた俗称とのことだという。営業部ってそういうのをつけるのが流行ってるの?と聞けば、あの二人は別格との答え。

「二人ともタイプは違いますけど、イケメンでプリンス然したキラキラした佇まいじゃないですか。しかも仕事も若手の中でもかなりデキるって評判ですし、高嶺の花って意味合いも含めて陰でそんな俗称で呼ばれてるんですよ〜!」

きゃいきゃい興奮気味にはしゃぐ田島さんらからはその後も興味津々といった様子の質問は続く。

「小西さん、イケメン二人に囲まれてどうなんですか?ドキドキしちゃったりします?いいなー!もうほんとに、うらやましい!!」
「うん、まあ確かに目の保養ではあるよね……」

キラキラした眼差しを向けられれば、私はなんとも複雑な気持ちになりながら、モニョモニョお茶を濁したような回答をしてしまう。


『私も田中君のこと、いいなって思ってた!』


……なんて、なんとなく言うことなんかできない。
彼女らにそんな悪意は無いとはわかっているけど、「お局様が、ちょっと優しくされたからって勘違いしてる。」なんて思われてしまった日には、羞恥のあまり出社拒否してしまいそうだ。

「ところでどっちが太陽の王子で、どっちが夕闇の貴公子なの?」

なんとなく明るく元気なイメージから、田中君が太陽の王子ぽいな……と思いながら聞いてみると、やはりその通りの回答だった。

「田中さんて、なんか元気で明るいから絵本の主人公みたいなんですよね〜」

と、田島さん。
わかる。悪いことなんて微塵も考えてなさそうなあの人懐こい笑顔は、どんなに凍てつく相手の心も溶かしてしまうような威力があるもの。

「あと、ここだけの話、田中さんてちょっと単純なところあるから、そこも絵本の中の人っぽいというか……」

……わかる。
イケメンで仕事もできるけど、若干うっかりしてる感じ。でも、そこがいいんだよね。
うんうん1人深く頷いていると、話題はいつの間にかもう1人のプリンスへと移っている。
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