年下男子を好きになったら 〜戸惑い女史とうっかり王子の、なかなか始まらない恋のお話〜

人事異動は突然に(または社畜の悲哀)

小西佐知子、32歳。独身。
入社以来総務課に在席して、今年で10年目。

業務はイベント事や突発的なことでもない限り、毎日決まったルーティン。

長年同じ業務に携わっていれば、あちこちから仕事の相談を受けてみたり、若手と上司の間に入って緩衝役を務めてみたりすることも多くなってくる。
そんな現状、役職こそないけれど課内ではまあまあ必要な立ち位置にいるのではないか?とも、こっそり自負をしてみたり。

特別刺激的なことはないけれど、かと言ってこれといった不満もない。そんな日々は転属願いでも出さない限り、ずっと続いていくものだと思っていた。

の、だけれども。

「小西さんには来月の人事で、営業1課に異動の辞令がでることになったからね。」

本日5月7日、ゴールデンウィーク明け早々に総務課長に会議室に呼び出された私は、休みボケも吹っ飛ぶような話をされていた。

「えーと、課長?今、人事異動って仰いました?」

聞き間違いであってほしいと期待を込めて質問すると、ビックリするのも無理はないと、「小西さんは、来月営業3課が新設する話は知ってるよね?」と、課長は私に改めて説明をし始めた。

社長発案のサプライズ改革こと営業3課新設に伴い、社内あちこちの部署から3課へと引き抜く人事が行われたのはつい先日のこと。

するとその元々の部署では人手不足による業務の滞りが起きてしまったらしく、案の定クレー厶が続出。
慌てた上層部はその解決策として、欠員が出た部署へは更に別な部署から人員を移動させて補う方向とし、追加人事を急遽発表することになったのだ、という。

……なるほど、話はわかった。

わかったけど、そこでなんで私が異動になる訳?
なんでそんな穴の空いたパズルに、合わないピースを無理矢理はめ込もうとするみたいな、回りくどくて無茶苦茶な人事に巻き込まれなきゃならない訳??

「欠員が出て大変ならば、新しく人を採用すればいいんじゃないですか?」
「いやぁ。あくまで業務分割する為の課の新設だから、人員は増やさない方針らしいんだよ」
「だとしたら私なんかより、柔軟な考え方ができる若い人のほうが新しい業務を覚えるのにはうってつけではないんですか?」

どうしてそこで32歳、総務課に勤続10年の私が畑違いの営業1課に異動する話になるのだろう。会社の意図が全く掴めず、ついつい課長に噛み付くような質問をしてしまう。

「そうなんだよねぇ」

わかるわかると課長は深く頷く。

「当初はこちらも若手社員を異動させる方向でいたんだけどねぇ」

……ならば、なぜこんな結果に?

釈然としないのがありありと顔に出てしまっているのか、課長はすまなそうに下がった眉を更に下げる。

「実は調整しているうちに、『若い人よりも経験豊富な社員の方が社内業務のシステムをより理解しているし、営業のサポートも円滑に行ってくれるので即戦力として期待できるのはないか?』って話の流れになってきてね」
「はあ……」
「小西さんは今まで展示会とかのイベント事の度に営業部に出向いて色々打ち合わせなんかもしてたよね?だから一番の適任ではないかって話でまとまって……ね」
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