年下男子を好きになったら 〜戸惑い女史とうっかり王子の、なかなか始まらない恋のお話〜
「いやあ、俺もなんやかんやでアカウントは持ってるもんですからね」
慌てる私に田中君はほんの一瞬だけ見たことのない艶っぽい表情を浮かべるが、すぐにまたいつもの無邪気な少年みたいな顔になる。
「小西さん困ってそうだったから、高橋にはああ言ってはみましたけど、実はSNSやってるんじゃないのかなと思って」
と、ニッコリ笑って言うのだった。
――
結局トマトは開花後ピタリ一ヶ月半で、成熟した赤い実となった。
インターネットの情報によると、生育途中で実が落ちたりして収穫量が少なくなることが多いとあったが、ここまではそんなこともなく教科書通り順調そのもの。
もしかしたら私は園芸の神が宿るという、あの噂の『緑の指』の持ち主なのかもしれぬ!
そんな悦に入りながら、早朝記念すべき今年最初の収穫作業を行い、早速4等分して小さなタッパーに詰めて、本日のお弁当の一品とするのだった。
そしてバタバタと時間は過ぎて。就業時間のお楽しみ、12時を回り自席でお昼の用意をしていると、高橋君がお弁当箱を覗き込んできた。
「あれ?このトマト、もしかしてこの間見せてくれたベランダで収穫されたやつですか?」
「そう!今朝初めて収穫したトマトなの。良かったら食べてみない?」
「やった!トマト大好き」
良い質問に思わずテンションも上がり、この初収穫の喜びを分かち合いたい!と誘ってみると、パクリと食べて「うわっ!甘っ!ウマっ」と嬉しい反応が返ってきた。
「田中君は?どう?」
嬉しくなって田中君にも水を向けてみると、彼はなぜだかほんの少し浮かない顔。あれ、もしかして、田中君……
「もしかして、田中、トマト嫌い?」
高橋君が私の気持ちを代弁するかの様に聞いている。
「う、うん……。でも……」
田中君は、せっかく小西さんが頑張って作ったんだから!と、トマトを目を白黒させながら口に運ぶ。
「……うん、うん、新鮮だって言う事は、わかる!」
そう言いながらゴクリと飲み込み、ちょっと涙目になりながらふいーっと息を吐いた。
「……小西さん、俺、頑張りました。頑張ったから、ご褒美下さい」
無理やり食べさせちゃったかな?と申し訳なくなっていると、田中君は潤んだ瞳でこちらを見つめ、なぜかおねだりの言葉を口にする。
「おねだり」だなんて、まるでいつかの夢みたいではないか。急に変なことを思い出せば、なぜかおかしな汗が出てきてしまう。
「ん?ご褒美って?なあに?」
「俺、実はさっきからそっちの卵焼きを狙ってたんですよ」
平常心を装って聞くと、田中君はメインのお弁当に向かって指をさす。
うーん卵焼きは私も好きだけど、仕方ない。
「じゃあ頑張った田中君にご褒美だね」
「じゃ、ご褒美ついでに、あーんで食べさせてくださいよ」
「えっと……だったら、トマトについてたピックは?」
「あっ!すいません、捨てちゃいました」
お弁当を差し出してみると、「昼食がパンだったから箸を持ってない」と言う田中君からはまさかの無茶振りが返ってくる。
ありゃりゃ。だったら仕方がない。
誰かにあーんさせるのなんて初めてで、どこに視線を合わせていいかわからない。
ドキマギさせながら口に持っていくと、田中君は卵焼きを箸ごとパクンと口に含む。
「あっ!うま!!」
そして一瞬驚いたように目を見開いた後に、顔をほころばせるのだった。
――
昼食の片付けの後に立ち寄った休憩室で、私は自販機で買った食後のコーヒーを飲みながら、先程の田中君のことを思い出していた。
『毎日こんな美味しいご飯作ってるんですか?!スゲエ!!俺、こんな美味しい卵焼き食べたの初めて!!』
大袈裟だとは思いつつも、褒められるとやっぱり嬉しいし、何より、私の箸からあーんして食べた時のあの一瞬の田中君の唇!あの表情!!
お行儀悪いね、と言いながら箸をチュッと舐めたあの仕草!!
慌てる私に田中君はほんの一瞬だけ見たことのない艶っぽい表情を浮かべるが、すぐにまたいつもの無邪気な少年みたいな顔になる。
「小西さん困ってそうだったから、高橋にはああ言ってはみましたけど、実はSNSやってるんじゃないのかなと思って」
と、ニッコリ笑って言うのだった。
――
結局トマトは開花後ピタリ一ヶ月半で、成熟した赤い実となった。
インターネットの情報によると、生育途中で実が落ちたりして収穫量が少なくなることが多いとあったが、ここまではそんなこともなく教科書通り順調そのもの。
もしかしたら私は園芸の神が宿るという、あの噂の『緑の指』の持ち主なのかもしれぬ!
そんな悦に入りながら、早朝記念すべき今年最初の収穫作業を行い、早速4等分して小さなタッパーに詰めて、本日のお弁当の一品とするのだった。
そしてバタバタと時間は過ぎて。就業時間のお楽しみ、12時を回り自席でお昼の用意をしていると、高橋君がお弁当箱を覗き込んできた。
「あれ?このトマト、もしかしてこの間見せてくれたベランダで収穫されたやつですか?」
「そう!今朝初めて収穫したトマトなの。良かったら食べてみない?」
「やった!トマト大好き」
良い質問に思わずテンションも上がり、この初収穫の喜びを分かち合いたい!と誘ってみると、パクリと食べて「うわっ!甘っ!ウマっ」と嬉しい反応が返ってきた。
「田中君は?どう?」
嬉しくなって田中君にも水を向けてみると、彼はなぜだかほんの少し浮かない顔。あれ、もしかして、田中君……
「もしかして、田中、トマト嫌い?」
高橋君が私の気持ちを代弁するかの様に聞いている。
「う、うん……。でも……」
田中君は、せっかく小西さんが頑張って作ったんだから!と、トマトを目を白黒させながら口に運ぶ。
「……うん、うん、新鮮だって言う事は、わかる!」
そう言いながらゴクリと飲み込み、ちょっと涙目になりながらふいーっと息を吐いた。
「……小西さん、俺、頑張りました。頑張ったから、ご褒美下さい」
無理やり食べさせちゃったかな?と申し訳なくなっていると、田中君は潤んだ瞳でこちらを見つめ、なぜかおねだりの言葉を口にする。
「おねだり」だなんて、まるでいつかの夢みたいではないか。急に変なことを思い出せば、なぜかおかしな汗が出てきてしまう。
「ん?ご褒美って?なあに?」
「俺、実はさっきからそっちの卵焼きを狙ってたんですよ」
平常心を装って聞くと、田中君はメインのお弁当に向かって指をさす。
うーん卵焼きは私も好きだけど、仕方ない。
「じゃあ頑張った田中君にご褒美だね」
「じゃ、ご褒美ついでに、あーんで食べさせてくださいよ」
「えっと……だったら、トマトについてたピックは?」
「あっ!すいません、捨てちゃいました」
お弁当を差し出してみると、「昼食がパンだったから箸を持ってない」と言う田中君からはまさかの無茶振りが返ってくる。
ありゃりゃ。だったら仕方がない。
誰かにあーんさせるのなんて初めてで、どこに視線を合わせていいかわからない。
ドキマギさせながら口に持っていくと、田中君は卵焼きを箸ごとパクンと口に含む。
「あっ!うま!!」
そして一瞬驚いたように目を見開いた後に、顔をほころばせるのだった。
――
昼食の片付けの後に立ち寄った休憩室で、私は自販機で買った食後のコーヒーを飲みながら、先程の田中君のことを思い出していた。
『毎日こんな美味しいご飯作ってるんですか?!スゲエ!!俺、こんな美味しい卵焼き食べたの初めて!!』
大袈裟だとは思いつつも、褒められるとやっぱり嬉しいし、何より、私の箸からあーんして食べた時のあの一瞬の田中君の唇!あの表情!!
お行儀悪いね、と言いながら箸をチュッと舐めたあの仕草!!