年下男子を好きになったら 〜戸惑い女史とうっかり王子の、なかなか始まらない恋のお話〜
さて、事務用品の管理と補充も立派な私の仕事の一つである。
そんな訳でキャビネットに発注した事務用品を補充中、一番上の棚に手が届かずに爪先立ちになって「よ……っと!」と掛け声を上げながらファイルを無理矢理押し込もうとしていると、
「小西さん、そういう事なら声かけてくださいよ」
と、田中君が私の手にその手を添えるとファイルをぐいっと棚に収めてくれた。
「ね?俺にお願いした方があっと言う間に終わっちゃうなんですから」
背後から覆い被さる様にしながら田中君は、茶目っ気たっぷりな視線で私を見下ろしてくる。
この他は何が残ってるんですか?と、ファイルを棚に次々収納しながら聞いてくれるのはありがたい。
けれど、これでは彼との距離が近過ぎる。
背中にうっすら伝わる田中君の体温。頭の上から聞こえてくる声とその息づかい。
うわあぁぁ。こ、これ、ダメなやつ。
抱きしめられてる気持ちになっちゃって、なんか、ときめいちゃうやつぅーーっ!!!
意識が違う方向にばかり行ってしまう。
動揺する私は、顔が真っ赤になっていないことを願うばかりで田中君に頼み事をするどころではない。
田中君にとっては単なる親切心からくる行動なんだろうけれど、流石は童貞。相変わらず無意識レベルの過剰なお色気攻撃に、私のメンタルはもはや風前の灯火である。
「あ、ありがと……」
田中君の目をうまく見ることができずにモジモジしていると、戸田課長の怒鳴り声が遠くから聞こえてくる。
「たーなーかー!この契約書の漢字、間違ってるぞお前ーっ!!」
「ええ?どこですかぁ?」
「ここの会社の住所、『荻』じゃなくて『萩』だぞ!お前この間も見積依頼に『大山様』って書くところ、汚ったねえ字で『犬山様』って書いてただろ!漢字に弱いのもいい加減にしろよ!」
「あっれー?すみません!今直します〜」
田中君はパッと私から離れると、小西さん続き手伝えなくてすみません!と謝罪のポーズを取りながら課長の席へと走って行く。
「俺、理数系だから漢字弱いんですよ〜」
「なーにが理数系だ。お前はどう見たって体育会系だろっつーの!」
「えー!課長ヒドイ!人を見た目で判断しちゃいけませんって!!」
二人の漫才みたいな楽しそうな会話が聞こえてくる。
上司にもなんの屈託もなく話ができるのはやっぱり田中君の強みよね。そんなことを思っていると、キャビネットをガサゴソさせながら、高橋君も手伝いにやって来てくれた。
「小西さん、残りパパっと片付けちゃいましょうよ」
「あ、ごめんね。でもありがとう」
まあ、色々小西さんには相談にのってもらってますからねえ。と高橋君は言いながら、「この見返りと言っちゃなんですけど、また後でちょっと話を聞いてもらってもいいですか?」と八の字眉になりながらこちらにお伺いをたててくる。
彼の恋路はどうやら茨の道であるようだ。
可哀想に思う私は、まあ話聞くだけだしね、と時間を取ることを了承するのだった。
そんな訳でキャビネットに発注した事務用品を補充中、一番上の棚に手が届かずに爪先立ちになって「よ……っと!」と掛け声を上げながらファイルを無理矢理押し込もうとしていると、
「小西さん、そういう事なら声かけてくださいよ」
と、田中君が私の手にその手を添えるとファイルをぐいっと棚に収めてくれた。
「ね?俺にお願いした方があっと言う間に終わっちゃうなんですから」
背後から覆い被さる様にしながら田中君は、茶目っ気たっぷりな視線で私を見下ろしてくる。
この他は何が残ってるんですか?と、ファイルを棚に次々収納しながら聞いてくれるのはありがたい。
けれど、これでは彼との距離が近過ぎる。
背中にうっすら伝わる田中君の体温。頭の上から聞こえてくる声とその息づかい。
うわあぁぁ。こ、これ、ダメなやつ。
抱きしめられてる気持ちになっちゃって、なんか、ときめいちゃうやつぅーーっ!!!
意識が違う方向にばかり行ってしまう。
動揺する私は、顔が真っ赤になっていないことを願うばかりで田中君に頼み事をするどころではない。
田中君にとっては単なる親切心からくる行動なんだろうけれど、流石は童貞。相変わらず無意識レベルの過剰なお色気攻撃に、私のメンタルはもはや風前の灯火である。
「あ、ありがと……」
田中君の目をうまく見ることができずにモジモジしていると、戸田課長の怒鳴り声が遠くから聞こえてくる。
「たーなーかー!この契約書の漢字、間違ってるぞお前ーっ!!」
「ええ?どこですかぁ?」
「ここの会社の住所、『荻』じゃなくて『萩』だぞ!お前この間も見積依頼に『大山様』って書くところ、汚ったねえ字で『犬山様』って書いてただろ!漢字に弱いのもいい加減にしろよ!」
「あっれー?すみません!今直します〜」
田中君はパッと私から離れると、小西さん続き手伝えなくてすみません!と謝罪のポーズを取りながら課長の席へと走って行く。
「俺、理数系だから漢字弱いんですよ〜」
「なーにが理数系だ。お前はどう見たって体育会系だろっつーの!」
「えー!課長ヒドイ!人を見た目で判断しちゃいけませんって!!」
二人の漫才みたいな楽しそうな会話が聞こえてくる。
上司にもなんの屈託もなく話ができるのはやっぱり田中君の強みよね。そんなことを思っていると、キャビネットをガサゴソさせながら、高橋君も手伝いにやって来てくれた。
「小西さん、残りパパっと片付けちゃいましょうよ」
「あ、ごめんね。でもありがとう」
まあ、色々小西さんには相談にのってもらってますからねえ。と高橋君は言いながら、「この見返りと言っちゃなんですけど、また後でちょっと話を聞いてもらってもいいですか?」と八の字眉になりながらこちらにお伺いをたててくる。
彼の恋路はどうやら茨の道であるようだ。
可哀想に思う私は、まあ話聞くだけだしね、と時間を取ることを了承するのだった。