年下男子を好きになったら 〜戸惑い女史とうっかり王子の、なかなか始まらない恋のお話〜
作業の進め方をレクチャーしてくれるのは、入社2年目の田島さん。お手製だというマニュアルを片手に作業の流れを一通り説明した後で、彼女はニッコリ微笑んだ。

「実は去年の新入社員研修の時に、私、小西さんに色々教えて頂いたんですよ」

我が社には新人研修の一環として、新入社員を何班かにわけた上、各部署に一ヶ月のローテーションで仮配属させるというものがある。けれど研修との名はつくけれど大した事など教えはしない。
『先輩の働く姿を見て会社組織の仕組みと社会人としての在り方を学んでもらう』、そんな前提で自分の通常業務の合間にバタバタと行うものだった。
ましてや私はどちらかというとあまり人の名前を覚えているのが得意ではないようで、ちょくちょくそういった指摘を受けることもあった。

「うわーごめん!そうだったんだ」
「まあ、あの時は何人もいたし、みんな新人の頃は似たようなスーツに髪型ですからわからないですよね。私も正直今の新入社員の顔と名前一致しませんし」

またやっちゃったか。
彼女が研修先の相手を覚えていてくれたことがうれしい反面、忘れてしまっていた自分を申し訳なく思っていると田島さんは「ここだけの話ですけど」と、肩をすくめて冗談めかして笑ってみせる。

「さあ、雑談はここまでとして。小西さんから研修を受けた私が、今度は小西さんに教える立場だなんてなんだか不思議な気持ちがしますけど、これからもフォローしますから安心してくださいね!」

10歳近く年下の後輩は、ドンと力強く胸を叩く。

「ふふっ。ありがとう」

彼女の気づかいを嬉しく思いながら、私はあれこれ質問して業務の流れを必死に覚えようとするのだった。
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