Happy Birthday
「ねぇ。あなたは今どこにいるの‥?」
「遠い所?それとも案外近かったりするのかな?」
「私の友達はみんなバラバラになっちゃったよ。
 でも。先生が言うには生きてるって。」

でも。彼の事だけは先生も知らない。って‥

ねぇ。生きてるよね‥。
私、ひとりぼっちになってないよね。

ねぇ。応えてよ。
私は覚えてるよ。あなたがいたことも。あなたと一緒にいた記憶も。
でも、みんな忘れちゃったのかな‥?
なんか夢がまだ覚めてないみたい。


「ねぇ〜いっつも思うんだけどさ〜」
と彼に話を切り出した。

「なんで私三月十二日生まれなのー?
 学校ないからさー誰にも祝われないんだけど。」

「いや、みんなからメールとかもらったりするでしょ」

「ちがうちがう〜。誕生日の日はさ。黒板とかにみんなが寄せ書きしてくれるじゃん?でも、私だけそれがされないんだよ〜。」

「寄せ書きはできないけどさ。明日僕が君の家にいくよ。」

「嬉しいけど嬉しく無い」
この言葉が似合う場面は今が最もふさわしいだろう。

私たちはそんな会話をして、家に帰ろうとしていた。
すると。大地から「ドンッ」っと大きな音が鳴りひびて、三秒ぐらいのラグがありながらスマホから、不気味な聞き馴染みのある音楽が鳴り響いた。

焦る私を、そっと包み込むような彼の落ち着きに私は少し安堵した。
いや。安堵してしまった。
「早く逃げるよ。」

彼の声は冷静で。初めての経験なのに妙に落ち着いていた。

はぁ…。もう前を向いて走ったのは久しぶりだ。
彼の手の温もりと、冷たい風が、混じり合って気持ちが悪い。
後ろを振り返るともう、黒い海がそこまできていた。
「速くっ…!もっとっ!」
涙を堪えながら私たちの体は前を向けて一直線だった。

「あぁ…もう。ダメだ。」そう決めつけてしまった。
急に私の体は加速した。



どうやら、彼に背中を思いっきり押されたようだった。
後ろを振り返っている時間はない。彼からの加速を無駄にするわけにはいかないんだ。

…やっと。波が来れない高台にやって来れた。
「ねぇ。どこ…?」
そう言っても返ってこない。

いや。帰るはずがない。
彼が私を押した後。「君だけでも生きてくれ。」
とかすかに聞こえた。
でも決めつけたくなかった。決めつけると全部忘れちゃいそうで。


ねぇ。私、明日。誕生日だよ…?
ねぇ…?プレゼントとかいらないからさ。

祝ってよ…。
いつも祝ってくれてたじゃん…。約束してたじゃん…。
「私の家で祝う」って。

ねぇ…夢なら早く覚めてよ…。



あれから13年。
今も私の世界の中には彼がいる。いるはずだ。
当時の瓦礫も、悲惨さも。苦しみも全部風化していってしまった。

みんな。忘れてしまった。
もう。彼はここには居ないのなら何度も死にたいくらいだった。



私の誕生日に彼が目の前に会いにきてくれるまで私は待ってるよ。

あの青い、ところでさ。



だからそれまで一人で言っておくよ。
「Happy Birthday」って………。

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