めがねの奥の彼は

オリエンテーション合宿 前編

 〇真白の夢の中ーーー小学2年生の真白が真っ暗で狭いところに閉じ込められている。

真白「開けて!開けてよ!」
叫びながらドンドンと扉を叩く。

真白(どうしよう、このまま誰も来なかったら…)
大きな絶望感に襲われて、目の奥から涙がこみ上げる。

真白(暗いよ…怖いよ…)「誰か助けて…」
その場にしゃがみ込み、膝に顔を埋める。

キィィと扉が開いて顔を上げた。

隙間から差し込む光に目を細める。

??「もう大丈夫」
聞こえてきた優しい声に安心して、差し伸べられた手を取った。


 〇真白の部屋、ベッドで寝ている真白。

目が覚めるといつもの天井がゆっくりと視界に広がる。

真白(…夢?)
目尻にはうっすらと涙の跡がある。

小さくため息をついて重い体をゆっくり起こした。
真白(久々にいじめられてた時の夢みたな…)

先日の、メガネを外した蒼大(そうた)の姿が頭を過ぎる。
矢吹(やぶき)蒼大(そうた)…」頭の中の蒼大(そうた)を払拭するようにフルフルと横に頭を振った。

「…最後に夢の中で助けてくれた人…あれは、誰?」
ぼんやりとした頭を抱えて呟く真白。





 〇合宿所ーーー緑に囲まれた山の中で、”友情を育もう”というスローガンの元オリエンテーション合宿が行われている。
生徒たち(ジャージ姿)は昼食のカレー作りにとりかかっている。

クラスメイトが楽しそうに雑談している中、真白は気配を消して流しで野菜を洗っている。
真白(ましろ)(とにかく気配を決して目の前のことに集中するべし…無心になれ、無心、無心、無心…)

蒼大「雛月さん、じゃがいもなくなっちゃうんじゃない?」
蒼大の声にハッとして手元を見ると、丸めたアルミホイルでじゃがいもを洗っていたはずが、擦りすぎて皮がなくなり本体も三分の一くらい削り取ってしまっていた。

真白「わぁー!すみませんすみません、無心でやってたらこんなことに」
慌てる真白をみて、笑いながら人参を差し出す蒼大。

蒼大「これならいくらでも削っていいよ」
人参を受け取り、蒼大をみる真白。

真白「…にんじん苦手なんですね」
蒼大「うん、できれば食べたくない」

苦々しい顔をする蒼大。

真白「おろし器があればすりおろせるんですが…」
蒼大「大丈夫…食べる!ありがとう」
蒼大「好き嫌いせずに食べないと大きくなれませんよ、とか言わないんだ?」
真白「蓮見くんは充分大きいですから(178センチ)」
二人並んで話しながら野菜を洗い、洗い終えた野菜を切るために炊事場に行ってしまった蒼大。

真白(…ハッ!なんか普通にしゃべってしまってる!蓮見君のペースにのまれてる?!?)
なぜか悔しそうに目を瞑る真白。

真白(蓮見くんは矢吹蒼大なんだから気を許しちゃだめだ。もう二度といじめられたくない…)
真白(まぁ、同じ班だから関わらないわけにはいかないんだけど…)





 〇木のテーブルの上に完成したカレーが並ぶ。同じ班のメンバー(男子三人、女子三人)が目を輝かせてカレーをみている。

片桐(かたぎり)あかね「めっちゃおいしそ〜!」(お団子頭に気が強そうな釣り目)
若狭(わかさ)青磁(せいじ)「食おうぜ!」(体格のいい野球部)

いただきます、と一堂カレーを頬張る。

片桐(かたぎり)あかね「なにこれ?!おいしすぎるんだけど!?!」
若狭(わかさ)青磁(せいじ)「こんなうまいカレー食ったことねー!」
藤堂(とうどう)すみれ「作ったの、蓮見くんと雛月さんだよね?」(ロングヘアー清楚)
有馬(ありま)千草(ちぐさ)「なにか隠し味入れた?」(髪を一つ結びしている、たれ目)※男子

班員からの質問攻めに焦る真白ともぐもぐとマイペースにカレーを食べる蒼大。
真白「えっと、味付けは蓮見くんがしてくれました」
蒼大「ブイヨンとハチミツとチョコ入れた」

片桐あかね「マジすごいわ!ウチらご飯炊くのにめっちゃ苦労したよね?!」
藤堂すみれ「なかなか火が着かなくてね」
片桐あかね「男子がちょー下手でさ〜」
若狭青磁「うるせー!お前らなんもしないで文句言ってただけだろ」
片桐あかね「ウチら米洗ったしー」

ギャーギャーと口論が始まり、無駄におろおろする真白。
真白「お米!おいしいです!とっても!…ねっ?蓮見くん!」
蒼大「うまいね、粒が立ってる」

若狭青磁「だろ?火加減の調整は俺がしたから!」
片桐あかね「ウチらが、丁寧に冷たい水で米洗って、水の量もちゃんと測ったからでしょ」
若狭青磁「いやいや、さっきからなんなんだよ!ケンカ売ってんのか?」
真白「はっ蓮見くん止めてください~」
蒼大「カレーうまい」





 〇流しで調理道具を洗っている蒼大と青磁。

青磁「お前らって付き合ってんの?」
蒼大「お前ら?」
青磁「蓮見と雛月さん?」
蒼大「あぁ…そういう風にみえる?」
青磁「みえる。雛月さんとしゃべってる時の蓮見、なんか楽しそうだし。雛月さんは蓮見としかしゃべんねぇーし。二人だけの世界ができちゃってる感じ」
蒼大「へぇ~そうなんだ。そんな風にみえるのか」
青磁「他人事かよ。で、実際どうなの?」

手を止めてため息をつく蒼大。
蒼大「そんなんじゃない。…雛月さんとは、付き合うとか付き合わないとか、そんなんじゃないから」
青磁「?つまり恋愛対象じゃないってこと?」

蛇口を閉めると、洗い終えた調理器具を大きなボールの中にがちゃがちゃとまとめる。

蒼大「入らないでしょ、いじめっ子は対象外」
自嘲気味に笑いボールを抱えて調理器具を片付けに行く。

青磁「え?なんて?」
蒼大「なんでもない、戻るぞ~」
青磁「??」





 〇昼食後の自由時間、宿所内女子部屋ーーー数人が輪になりトランプでババ抜きをしている。その中に真白も混ざっている。

あかねが嬉しそうに最後の一枚を隣の真白に差しだし、真白が震える手でそれを取る。

あかね「イェーイ!!勝った勝ったー!!」
嬉しそうに両手を上げるあかね。

真白の手にはジョーカーが。それを恨めしげに見る真白。

あかね「雛月さん罰ゲームね!」
真白「なにをすれば…」
あかね「三回回ってワンーーー」
嬉々として真白に罰ゲームの内容を伝えるあかね。

クラスメイトの女子が興味津々に割って入る。
モブ女子1「ねぇ、雛月さん!ずっと聞きたかったんだけどー」
モブ女子2「雛月さんって蓮見くんと付き合ってるの?」

真白「え?」
予想外の質問に驚く真白。

モブ女子1「放課後2人っきりで勉強してたよね?」
モブ女子2「めっちゃ仲いいよね」
モブ女子1「付き合ってるんでしょ?!」
真白に詰め寄る2人。

自分に向けられる期待の眼差しが眩しくて手をかざす真白。
真白「いや、あの…」

言いよどむ真白を見かねて、あかねがパンッと手を叩く。

あかね「はい!そういう質問は事務所を通してくださ~い」
冗談を言いながら真白の肩を抱く。

あかね「すみれ~いこー?」
すみれ「はーい」
すみれが真白の背中を押して女子部屋をでる。

あかね「答えたくないことはこたえなくていいから、ね」
すみれが隣でうんうんと頷く。

真白「あ、ありがとう…ございます」
安心して胸を撫でおろす真白。

モブ男子「おーい、委員長がグラウンド集合だって」

あかね「なんだろ?」
すみれ「サプライズ?」
あかね「雛月さんいこ~」
真白「あ、はい」
三人連れ立ってグラウンドへ出ていく。




 ◯宿所前、グラウンドーーーぞろぞろと出てくる1年1組の生徒たち。委員長の(さかき)吏紅(りく)(猫っ毛で中性的な顔立ち※男子)が生徒たちを一か所に集めている。

榊吏紅「全員集まった?」
生徒たち「なになに?」
榊吏紅「夕食までの自由時間、みんなに楽しんでもらおうと思って楽しい企画を準備しました!」
モブ生徒「企画って?」

榊吏紅「ワクワクドキドキ肝試し大会ー!!」
じゃじゃーん!とハイテンションに企画発表する吏紅。

モブ生徒「肝試しって、まだ明るいけど?」※pm4:30
榊吏紅「男女二人一組でペアになって、この先にある神社にお賽銭を入れて帰ってきてください。ペア決めはくじ引きね」

どこからか副委員長の三栗(みくり)柚子(ゆず)(ショートヘアおっとりした雰囲気)がくじの箱を持ってきた。文句を言ったり楽しそうに話しながらくじを引く生徒たち。

真白(ちょっと待って!肝試し?!なにそれ聞いてないんですけど?!)
頭を抱えて混乱しながらも、促されて流れ作業のようにくじを引く真白。

真白(16番…)
(さかき)吏紅(りく)「女子が1人余っちゃうんで16番を引いた人は一人でいってもらいまーす」

真白(一人…?!いやいや無理無理無理無理)
三栗(みくり)柚子(ゆず)「それはちょっとかわいそうだよ。あ、雛月さんが16番ね。ねぇ、だれか雛月さんも一緒に入れてあげて」

青磁「げっ!お前と一緒かよ!」
あかね「こっちのセリフだし!」

すみれ「有馬くんとか、よろしくね」
千草「よろしく~」

周りを見るとペアになった男女がいい雰囲気になっていた。

真白「あ、だ、大丈夫です。わたし一人で行けますから…」
三栗(みくり)柚子(ゆず)「ほんとに大丈夫?」


(さかき)吏紅(りく)「すぐそこだから、ちゃっと行ってぱぱっと帰ってくれば大丈夫だよ」
三栗(みくり)柚子(ゆず)「もう~無責任なこと言わないでよ」
真白「本当に、本当に大丈夫ですから…」
三栗(みくり)柚子(ゆず)「一緒に行ってあげたいんだけど、私たちここに居なきゃいけなくて。雛月さんごめんね」
真白「あははは、が、がんばります…」(どうしよう絶対無理死んじゃうお母さん助けて)





次々とペアが出発して帰ってくる間、真白は心中でお経を唱えていた。

真白(南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…お願いだからわたしのところに化けて出ないでください)

三栗(みくり)柚子(ゆず)「雛月さん、そろそろ出発だよ~」
真白「は、はい~…」
三栗(みくり)柚子(ゆず)「気を付けて行ってらっしゃい」
真白「行ってきます」

手渡されたお賽銭用の五円玉を握りしめ重い足取りで神社へ向かう真白。
開始から一時間が経過し時刻は午後5時半を回っていた。空はオレンジに染まり陽が傾きかけている。神社までの道中は薄暗い山道で、風が吹くと木々がざわざわとざわめきカラスが不気味な声で鳴いている。そこここで音が聞こえる度に真白はびくっと身体を震わせる。

真白「もうヤダ〜〜〜早く帰りたい〜〜〜」

目に涙をためて半泣きで恐る恐る歩を進めていると背後でガサガサッと物音がした。

真白「ひぃぃぃっ!!!」

後ろを振り向く余裕がなく、全速力で神社に向かう。

真白「あっ?!」

途中、なにかにつまづいて派手に転けてしまった真白。

真白「いたい…」

膝を強く打ち付けてしまいジンジンと痛む。

真白「うぅぅっ、なんでわたしがこんな目に…」

膝を抱えて目を瞑り顔をうめる。先日みた夢が脳裏に浮かび、真っ暗な視界の中で、声も出さずにじっとうずくまる。

真白(誰か…助けて…お願い……誰か…)

蒼大「雛月さん!」

蒼大の声に反応してゆっくりと顔を上げる真白。

蒼大「大丈夫?」

心配そうに様子をうかがいながら片膝をついて手を差し出す。

真白「は、はすみ…く…」

蒼大の顔を見た途端、堰を切ったように涙が溢れて、真白の視界はぐちゃぐちゃに歪む。

蒼大「もう大丈夫、大丈夫だよ」

蒼大の腕の中に包まれて、安堵して目を瞑る真白。










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