めがねの奥の彼は

体育祭

 教室、LHRーーー委員長・副委員長が中心となって体育祭の出場種目を決めている。女子三人でじゃんけんをし、パーをだして一人負けした真白。

三栗柚子「二人三脚の男女ペアは雛月さんと高梨くんね」

がっくりと肩を落として自席に戻る真白。それを気の毒そうにみる隣の席の蒼大。

真白「わたし、致命的に足が遅いんですが、どうしたらいいんでしょうか…ペアの高梨くんに迷惑をかけてしまいます」
蒼大「う~ん、二人三脚は足の速さだけじゃないから。ペアの相性も重要でしょ」
真白「…なるほど。蓮見くんはなにに出場するんですか?」
蒼大「俺は綱引きと玉入れ」
真白「団体競技…わたしが出たかったやつ…蓮見くん二人三脚にーー」
蒼大「出ません」

真白の提案にかぶせ気味に断りを入れる蒼大。恨めし気に蒼大に視線をおくる真白。

高梨「雛月さん」
真白「あ、はい…」

自席から手招きして真白を呼ぶ高梨。慌てて立ち上がり高梨の元へいく真白。

あかり「サッカー部で足が速いんだって」
青磁「顔もまぁイケメンだしな」

どこからか湧いて出て高梨の情報を伝えるあかりと青磁に、怪訝な顔をする蒼大。

蒼大「だからなに?」
あかり&青磁「いや、別に~」
蒼大「変な気回すなよ。俺と雛月さんはそんなんじゃないから」

席を立ちどこかへいってしまう蒼大。

青磁「そんなこと言われてもな~」
あかり「あんな瞬間(恋に落ちる瞬間)に遭遇したら、気になっちゃうよね~」





 放課後のグラウンドーーー二人三脚の練習をすることになった真白は、ジャージ姿で軽く準備体操をしている。

高梨「まずは、軽く走ろうか?」
真白「は、はい」

並んでグラウンドをジョギングする二人。高梨のペースについていけず、すぐに息が上がる真白。高梨よりも半周遅れで到着した真白は既に肩で息をしている。

高梨「大丈夫?」
真白「…はい……あの、す、すみま…せん」

膝に手を置いて息を整えている真白。その間に高梨が二人の足首をひもで結ぶ。

高梨「じゃあ一回走ってみよう」
真白「え…」(ちょっと待って!心の準備が…)
高梨「外側の足からね。いくよ?せーのっ…」

バタンッと豪快にこけてしまう二人。

真白「ごっ、ごめんなさい!足まちがえました!」
高梨「おっけー。んじゃ、もう一回ね」

特に怒る様子もなく立ち上がる高梨。

高梨「いくよ?せーのっ…」

先程と同じようにバタンッとこけてしまう二人。

真白「ご、ごごごごめんなさい~~~あの、頭ではわかってるんですが体がいうことをきかなくて…」
高梨「ぶはっ!雛月さんおもしれー!!二回も間違えるとかもう才能だわ!」
真白「さ、才能ですか??」
高梨「一歩目は絶対こける才能!」
真白「あんまり嬉しくない才能ですね…」





 放課後ーーー急いで帰宅する蒼大。
グラウンドの横を通り過ぎる時にフェンス越しに真白と高梨が練習しているのが目に留まる。
楽しそうに笑っている高梨と、少し疲れた様子の真白。
高梨の笑い声が響いている。みていられなくて目をそらしその場を後にする。





 翌日、休み時間の教室ーーーだらしなく机に突っ伏している真白。

あかね「雛月さんしんでるじゃん!大丈夫?!」
すみれ「二人三脚の練習きついの?」

むくりと起き上がる真白。

真白「完全に足手まといになってます…歩幅もペースも、遅いわたしに合わせてもらってるので、高梨くんの瞬足が活かせてません…」
真白「もっと練習しないと…高梨くんに迷惑が…」

蒼大「いいんだよ。いっぱい迷惑かければ」

不貞腐れたようにぶすっとした顔をしてなにかを差し出す蒼太。

真白「そういうわけには…」

反射的に受け取った真白。手の平の上には飴玉が。

真白「いちごミルク…ありがとうございます」
あかね「蓮見くん、ウチらには?」
蒼大「一個しかない」
あかね「ケチー!」

席を立ち廊下に出る蒼太。包みを開けて口の中に飴玉を入れる真白。

真白「あまい…」

口の中で転がしながらどこか嬉しそうにはにかむ。





 休み時間の廊下(男子トイレ前)ーーー教室からでてきて廊下を歩いている蒼大。トイレから高梨の声が聞こえてくる。

高梨「めちゃくちゃ遅くてさ、巻き込まれて何回もこけた」
モブ男子「あぁ、雛月さん鈍そうだもんな」

“雛月さん”と聞こえて耳をそばだてる蒼大。

高梨「そうなんだよ。体力もないし大丈夫かな」
モブ男子「高梨も大変だな」
高梨「大変だけど、なんかおもしろいんだよね、あの子。文句も言わないで健気にがんばってて。もっととっつきにくいと思ってたけど意外としゃべれるし」

ズンズンと男子トイレに入り、中にいた高梨を睨む蒼大。

高梨「蓮見?!な、なんだよ」

なにか言いたげにじーっと睨むが、言葉が出てこずふぅと息を吐く。

蒼大「二人三脚がんばって」
高梨「お、おう…」

困惑している高梨をよそに、スタスタとトイレをでていく蒼大。

青磁「気にすんな、アイツ思春期だから」
たまたまトイレに居合わせた青磁が、高梨を哀れみ肩をポンと叩く。
高梨「??」





 〇数日後、放課後のグラウンドーーージャージ姿の真白と高梨が二人三脚の練習をしている。
二人「せーのっ!いち、にっ、いち、にっ、いちーーー」
ゆっくりだが、掛け声のおかげでタイミングや歩幅が合うようになってきた。

高梨「おー!いいんじゃない?!」
グラウンドを半周走り終え、手ごたえを感じた高梨は真白に向かって片手を上げる。
真白は戸惑いながら遠慮がちに手を上げて、イェーイ!とハイタッチをする。

高梨「あとは、もうちょいスピード上げれたらいいよね~」
足首の紐をほどく高梨。

真白「そうですね…あ、腕の振りを大きくするといいらしいです」
高梨「あぁ!振りの大きさも合わせるといいらしいよ」
真白「なるほど。じゃあーー」

高梨「っ!!?!」
なにか気配を感じてバッと後ろを振り向く高梨。

真白「ど、どうしました?」
高梨「いや、なんか視線を感じて…気のせいかな」

蒼大がフェンス越しに二人をみている。複雑な顔をしている。




〇体育祭当日のグラウンドーーージャージ姿、髪を一つに束ねて赤色のハチマキをしている真白。

真白(あ~緊張で吐きそう…)
応援するたくさんの生徒たちをみて具合が悪くなる真白。

高梨「雛月さん!がんばろうぜ!」
爽やかな笑顔でバシバシと真白の背中を叩く高梨。
真白「は、はい…」

教師「位置について…よーい…」
パァァンという合図で走り出す2人。

真白&高梨「いち、にっ、いち、にっ、いちーーー」
転ぶことなく無事に2位でゴールする。

生徒観覧席で盛り上がっているクラスメイト。蒼大だけ不機嫌な顔をしている。
青磁「おおお!!!2位だ!!あの2人すげー!!」
千草「練習ではボロボロだったのにね」
あかり「ねぇ!?すごくない!?蓮見くん聞いてる?!」
蒼大「………」
すみれ「眉間のシワがすごいんですけど…」

蒼大視点
笑顔で抱き合っている真白と高梨。

生徒観覧席に戻ってきた真白と高梨を労うクラスメイト。
あかり「おつかれー!2位すごいじゃん!」
すみれ「頑張ったね、すごいよ」
青磁「練習であんなに転けてたのにさ、本番では息ぴったりなんだもん!すげぇーよ!」

真白「あ、ありがとうございます。全部高梨くんのおかげです」
高梨「2人でがんばったからだよ!雛月さんおつかれ!」
笑顔でハイタッチをし、自分の場所へ戻っていく高梨。

蒼大「おつかれさま」
真白に声をかける蒼大。複雑な表情をしている。

真白「へへっ、ありがとうございます」
嬉しそうに笑う真白。

目の前でゆらゆら揺れる真白のポニーテールに無意識に手を伸ばす蒼大。

真白の細い髪は蒼大の手を滑り抜け、代わりに赤いハチマキの端っこを掴んで引っ張ってしまった。

しゅるっとハチマキが解けて、真白があっ!と小さく口を開けて頭を触る。

蒼大「あ、ごめん」
慌ててハチマキを返す蒼大。なぜか照れている。

真白「…いえいえ」
ハチマキを受け取る真白。照れが伝染している。

あかね「あの二人なにやってんの?」
青磁「さぁ?」
呆れているあかねと青磁。




 〇1時間後ー体育祭の当日、グラウンドーーー
生徒観覧席
すみれ「次、クラス対抗リレーだよ!」
真白「あ、片桐さん(あかね)と若狭くん(青磁)が出るんですよね。応援しなきゃ」

遠目に、あかねに手を引かれて走っていく蒼大を目撃する真白。
真白「蓮見くん?」

リレーの選手が入場し、メンバーの中に蒼大が混ざっているのを発見する。
すみれ「あれ、蓮見くんじゃない?」
真白「…ですよね?」

青磁「さっきの騎馬戦で足痛めちゃってさ、俺の代わりに出てもらったんだ」
真白とすみれの背後から声をかける青磁。足をケガしている。
すみれ「えー!蓮見くん大丈夫かな?アンカーでしょ?」

心配そうにみつめている真白。

教師「位置について…よーい…」
パァァンという合図で走り出す生徒たち(四人)。

第一走者の榊吏紅(委員長)が3位で、第二走者の三栗柚子(副委員長)にバトンをわたす。
「委員長ー!がんばれー!」

第二走者の三栗柚子(副委員長)が2位で、第三走者の片桐あかねにバトンをわたす。
「副委員長ー!」「ゆずー!がんばれー!」

第三走者の片桐あかねが1位で、アンカーの蒼大にバトンをわたす。
「あかねー!ファイトー!!」「1位だよー!」

バトンを受け取り走り出す蒼大。
青磁「いけー!蓮見ー!!」

足がもつれて転んでしまう蒼大。
真白(あっ!)

次々と抜かされていく。
真白(蓮見くん!)

立ち上がった蒼大と目が合う真白。

真白「はすみくーん!!がんばれー!!はすみくーん!」
泣きそうな顔をして必死に名前を呼ぶ真白。

必死に走る蒼大。

最下位でゴールする。
モブ男子「なんだよービリじゃん」
モブ男子「若狭(青磁)が出てたら1位だったのに」
モブ女子「仕方ないよ」

聞こえてくる心無い声に胸を痛める真白。
汗を拭う蒼大を、遠目にみつめる。




 〇体育祭終了後、体育館裏の水道ーーー足を洗っている蒼大。
排水溝に流れていく水をぼんやりとみつめ、ため息をこぼす。

真白「お、おつかれさまです…」
遠慮がちに蒼大に声をかける。手には救急箱を持っている。

蒼大「あ…雛月さん」
疲れた顔をしている蒼大。

真白「手当、しますね」
救急箱をみせる。




 〇ベンチに座っている蒼大と膝を消毒する真白。
蒼大「いっ…!」
真白「動かないでください」
蒼大「はい…」

ガーゼが貼られた膝を撫でる蒼大。
蒼大「ただのすり傷なのに大げさじゃない?」
真白「なに言ってるんですか。化膿したら大変ですよ」
蒼大「はい、すみません。ありがとうございます」

ふぅ、と一息ついて蒼大の隣に座る真白。
蒼大「リレーの時、雛月さんの声聞こえたよ」
真白「あぁ…大声で叫んでましたから」

蒼大「うん、必死に応援してくれてた…」
真白「あんなに大声出したの、初めてです…」
恥ずかしそうにうつむく真白。

蒼大「ははっ、そっか。せっかく応援してくれたのに、ごめんね」
真白「謝らないでください。蓮見くんはなにも悪くないです」
苦笑する蒼大とふるふる首を振る真白。

無言の間が続く。
真白の髪が陽光に当たってキラキラしている。
白い肌が日焼けのせいで少し赤らんでいる。

真白「…気にしないでください…蓮見くんのせいじゃないです…責任感じないでください」
沈黙を破った真白の言葉に耳をかたむける蒼大。

下を向いたまま、か細い声で話す真白。
真白「と言っても蓮見くんは気にします。責任感の強い人だから…」
真白「だからこういう時…なんて言ったらいいのかわからなくて…」

膝の上でぎゅっと拳を握り顔を上げて蒼大をみる真白。
真白「蓮見くんのほしい言葉とか、してほしいこととか、」
真白「なにか、ありますか…わたしにできること…」

ふふっと口元をゆるめ、顔がほころぶ蒼大。
蒼大「雛月さんはすごいなぁ…」

首をかしげる真白
真白「まだなにもしてませんよ?」

手を伸ばして真白の頭をなでる。
蒼大「こうやって一生懸命に俺のこと考えてくれた。それだけで充分嬉しいよ」

赤くなる真白。きゅっと胸が痛くなる。

赤くなった顔を隠すようにそっぽを向いて胸に手をあてる。
真白(蓮見くんは矢吹蒼大なんだから…ときめいちゃだめ!しっかりしろ、わたし!)

蒼大「そろそろもどろっか」
真白「そ、そうですね…」

立ち上がる時にぐきっと足首をひねってしまい、蒼大の元に倒れこむ真白。
真白「ぅわっ!」

真白を抱きとめる蒼大。
蒼大「大丈夫?」

顔をのぞきこまれて驚いて蒼大から離れる。
真白「す、すみません!大丈夫ですか?!ごめんなさい!」
蒼大「雛月さんこそ大丈夫ーーー」

蒼大の言葉をさえぎり、慌てて校舎へと戻っていく真白
真白「あ、救急箱返さなきゃ!し、失礼します!」

真白(あぁ!もう!なにこれ!!)
どきどきと高鳴る胸と熱くなる顔に混乱する真白

























< 5 / 5 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

コイワズライ

総文字数/59,864

恋愛(純愛)58ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop