早河シリーズ最終幕【人形劇】
再び赤坂ロイヤルホテルの3003号室に逆戻り。暖房の効いた室内に入ると冷えた足元がじんわり暖まってくる。
ここまで美月を連れてきた莉央も一緒に部屋に入り、莉央はまず洗面所で濡れタオルを作ってくれた。
「汚れた部分はこれで拭いた方がいいわ」
「ありがとうございます」
「私は飲み物の用意をしてくるね。今度はちゃんと待ってるのよ?」
ふふっと微笑んで莉央はダイニングルームに向かった。
莉央が作ってくれた温かい濡れタオルを足の裏に当てる。本当はシャワーを浴びたいがそんな気力はない。足や手の汚れを拭き取るので精一杯だ。
リビングにいる美月には飲み物の用意をする莉央の後ろ姿が見えた。赤いロングドレスから覗く華奢な肩と背中、細くくびれた腰のライン、女性として完璧な莉央のプロポーションに羨望の溜息が出る。
(莉央さんって、隼人と似てる。綺麗でスタイルが良くてきっと頭も良い。見た目も中身も完璧って言うか……隼人はあれで完璧過ぎてはいないけど、でも二人はよく似てる)
莉央が貸してくれたグレーのコートを脱いで裏返しにして畳み、傍らに置く。パーティーで泣いてしまった時もハンカチを借りた。
莉央には物を借りてばかりだ。
非常階段で落としてきた片方のイヤリングはエステサロンの借り物だった。何階に落としてきたのか思い出せない。どうしたらいいだろう。
(変なの。こんなこと悠長に考えてるなんて……)
決死の脱出劇は失敗に終わり、身体も心もくだびれていた。何もかもどうにでもなれと投げやりな気持ちになってくる。
「お待たせ」
莉央が二つのカップを載せたトレーを運んで来た。カップの中身は白い液体、ホットミルクだ。
トレーにはチョコチップクッキーも一緒に載っていた。この部屋にクッキーの用意があったことを美月は初めて知った。
「何もお手伝いできなくてすみません」
「いいのよ。あなたが一番疲れているんだから。さ、飲んで」
ホットミルクは甘さの中にピリリとした辛さがあり、辛みが全身を巡って手足がポカポカと温かくなる。莉央が飲んでいる飲み物も同じ物だ。
「美味しい。これ、入っているのは生姜……ですか?」
「そうよ。ハニージンジャーホットミルク。これはね、私が初めてキングと出会った日に飲んだ飲み物なの」
「キングと出会った日?」
莉央は美月の斜め前に座っている。彼女はドレスから覗いた細い脚を組み、脚の上に両手を重ねた。
「キングと出会ったのは高校3年の夏だった。暑い夏の夜。家出して行き場のなかった私の前にキングが現れたの」
「それでカオスに?」
莉央は頷き、ホットミルクを一口飲む。
「莉央さんはどうしてキングの側にいるんですか?」
「キングは私の居場所なの」
心地良いソプラノの声が紡ぐ言葉のひとつひとつが謎を残す。どこに向かわせればいいかわからない様々な感情が美月の心に渦巻いた。
ここまで美月を連れてきた莉央も一緒に部屋に入り、莉央はまず洗面所で濡れタオルを作ってくれた。
「汚れた部分はこれで拭いた方がいいわ」
「ありがとうございます」
「私は飲み物の用意をしてくるね。今度はちゃんと待ってるのよ?」
ふふっと微笑んで莉央はダイニングルームに向かった。
莉央が作ってくれた温かい濡れタオルを足の裏に当てる。本当はシャワーを浴びたいがそんな気力はない。足や手の汚れを拭き取るので精一杯だ。
リビングにいる美月には飲み物の用意をする莉央の後ろ姿が見えた。赤いロングドレスから覗く華奢な肩と背中、細くくびれた腰のライン、女性として完璧な莉央のプロポーションに羨望の溜息が出る。
(莉央さんって、隼人と似てる。綺麗でスタイルが良くてきっと頭も良い。見た目も中身も完璧って言うか……隼人はあれで完璧過ぎてはいないけど、でも二人はよく似てる)
莉央が貸してくれたグレーのコートを脱いで裏返しにして畳み、傍らに置く。パーティーで泣いてしまった時もハンカチを借りた。
莉央には物を借りてばかりだ。
非常階段で落としてきた片方のイヤリングはエステサロンの借り物だった。何階に落としてきたのか思い出せない。どうしたらいいだろう。
(変なの。こんなこと悠長に考えてるなんて……)
決死の脱出劇は失敗に終わり、身体も心もくだびれていた。何もかもどうにでもなれと投げやりな気持ちになってくる。
「お待たせ」
莉央が二つのカップを載せたトレーを運んで来た。カップの中身は白い液体、ホットミルクだ。
トレーにはチョコチップクッキーも一緒に載っていた。この部屋にクッキーの用意があったことを美月は初めて知った。
「何もお手伝いできなくてすみません」
「いいのよ。あなたが一番疲れているんだから。さ、飲んで」
ホットミルクは甘さの中にピリリとした辛さがあり、辛みが全身を巡って手足がポカポカと温かくなる。莉央が飲んでいる飲み物も同じ物だ。
「美味しい。これ、入っているのは生姜……ですか?」
「そうよ。ハニージンジャーホットミルク。これはね、私が初めてキングと出会った日に飲んだ飲み物なの」
「キングと出会った日?」
莉央は美月の斜め前に座っている。彼女はドレスから覗いた細い脚を組み、脚の上に両手を重ねた。
「キングと出会ったのは高校3年の夏だった。暑い夏の夜。家出して行き場のなかった私の前にキングが現れたの」
「それでカオスに?」
莉央は頷き、ホットミルクを一口飲む。
「莉央さんはどうしてキングの側にいるんですか?」
「キングは私の居場所なの」
心地良いソプラノの声が紡ぐ言葉のひとつひとつが謎を残す。どこに向かわせればいいかわからない様々な感情が美月の心に渦巻いた。