早河シリーズ最終幕【人形劇】
3003号室の二つ隣、廊下の一番奥の3001号室の扉を莉央は開ける。
3001号室も美月の部屋と同じスイートルームだが3003号室よりもさらに広い。このホテルで最上級の部屋だ。
「パーティーの主役がこんなところでのんびりしていていいの?」
リビングのソファーには貴嶋がいた。彼は微笑みだけを向けて酒の入るグラスを傾ける。
『美月の様子はどうだい?』
「今は落ち着いてる。あの様子じゃ脱出は諦めたようね。意気消沈してたわ」
莉央は貴嶋の隣に腰を降ろす。彼の手が自然と莉央の肩に回り、彼女は貴嶋に寄り添った。
『そうか。可哀想だねぇ』
「心にもないことを。あの子の脱出劇を愉しそうに見ていた貴方は相変わらず性格が悪いのよね」
『私は籠の中の可愛い小鳥が外に出ようと必死に右往左往している様を眺めていただけだよ』
貴嶋が空のグラスに酒を注ぎ、莉央に渡す。二つのグラスが触れ合った。
『だがやはり美月は莉央とは違うね。君は一度も私から逃げようとはしなかった』
「あの子と私では前提条件が違うもの。私には逃げる理由がなかった。貴方の隣にいることを決めたのは私」
口紅のついたグラスがテーブルに置かれる。その横には貴嶋のグラスが並び、貴嶋と莉央は指先を絡めてキスをした。
浅丘美月。彼女は木村隼人と同じ瞳をしていた。真っ直ぐで穢れのない綺麗な瞳。
それはいつかどこかで置いてきたもの?
それはいつかどこかで忘れてきたもの?
それはいつかどこかで失ったもの?
あれは莉央が10歳の時のクリスマスイブ。
彼女が住む北海道には雪が降っていた。東京から来ていた父が莉央に贈ったクリスマスプレゼントは雪と同じ真っ白なテディベア。
あの白いテディベアの黒くて丸い瞳が美月と重なる。
父に会えない代わりにテディベアを抱いて眠った。母が死んだ夜もテディベアと一緒だった。泣きながら眠る莉央の腕の中でテディベアの目元も濡れていた。
父が死んだ16歳の夜、もうテディベアは側にいなかった。
どこへ置いてきた?
どこへ忘れてきた?
どこで失った?
ドレスのスリットから覗くのは莉央の白い柔肌。きめ細やかな質感の肌の上を骨張った貴嶋の指が滑る。
莉央の肌を弄ぶ彼の指はするりとドレスの内側に侵入し、中に潜むショーツが彼女の細い足首めがけて落下した。
ソファーの座面の上で左右に広げられた彼女の両脚、その中心部が貴嶋を待ち構えている。
骨張った男の指と柔らかな舌が莉央の蜜壺を這うたび、官能的な音が割れ目から漏れている。繰り返される愛撫に次第に吐息を熱くさせる莉央を見て、貴嶋は口元を斜めにして笑った。
『いつまで経っても初々しい反応で可愛いね』
「もう。キングだけが愉《たの》しんで……ずるい」
『知らなかったか? 私は意地が悪いんだ』
「とっくに知ってる。けど私だけが、こんなに恥ずかしい格好で恥ずかしいことをされるのは不公平よ。キングも乱れてくれないと私が愉しくないもの」
身をよじらせた彼女の手で貴嶋が纏う黒いワイシャツがはだけてゆく。シャツが剥がれ、ベルトが抜かれ、最後はスラックスのジッパーが降ろされる。
莉央は躊躇《ためら》いなく貴嶋の下半身に顔を埋め、彼の分身を口で愛撫する。莉央の口内で昂ぶる己を感じつつ、彼は愛しげに目を細め、彼女にされるがままじっとしていた。
3001号室も美月の部屋と同じスイートルームだが3003号室よりもさらに広い。このホテルで最上級の部屋だ。
「パーティーの主役がこんなところでのんびりしていていいの?」
リビングのソファーには貴嶋がいた。彼は微笑みだけを向けて酒の入るグラスを傾ける。
『美月の様子はどうだい?』
「今は落ち着いてる。あの様子じゃ脱出は諦めたようね。意気消沈してたわ」
莉央は貴嶋の隣に腰を降ろす。彼の手が自然と莉央の肩に回り、彼女は貴嶋に寄り添った。
『そうか。可哀想だねぇ』
「心にもないことを。あの子の脱出劇を愉しそうに見ていた貴方は相変わらず性格が悪いのよね」
『私は籠の中の可愛い小鳥が外に出ようと必死に右往左往している様を眺めていただけだよ』
貴嶋が空のグラスに酒を注ぎ、莉央に渡す。二つのグラスが触れ合った。
『だがやはり美月は莉央とは違うね。君は一度も私から逃げようとはしなかった』
「あの子と私では前提条件が違うもの。私には逃げる理由がなかった。貴方の隣にいることを決めたのは私」
口紅のついたグラスがテーブルに置かれる。その横には貴嶋のグラスが並び、貴嶋と莉央は指先を絡めてキスをした。
浅丘美月。彼女は木村隼人と同じ瞳をしていた。真っ直ぐで穢れのない綺麗な瞳。
それはいつかどこかで置いてきたもの?
それはいつかどこかで忘れてきたもの?
それはいつかどこかで失ったもの?
あれは莉央が10歳の時のクリスマスイブ。
彼女が住む北海道には雪が降っていた。東京から来ていた父が莉央に贈ったクリスマスプレゼントは雪と同じ真っ白なテディベア。
あの白いテディベアの黒くて丸い瞳が美月と重なる。
父に会えない代わりにテディベアを抱いて眠った。母が死んだ夜もテディベアと一緒だった。泣きながら眠る莉央の腕の中でテディベアの目元も濡れていた。
父が死んだ16歳の夜、もうテディベアは側にいなかった。
どこへ置いてきた?
どこへ忘れてきた?
どこで失った?
ドレスのスリットから覗くのは莉央の白い柔肌。きめ細やかな質感の肌の上を骨張った貴嶋の指が滑る。
莉央の肌を弄ぶ彼の指はするりとドレスの内側に侵入し、中に潜むショーツが彼女の細い足首めがけて落下した。
ソファーの座面の上で左右に広げられた彼女の両脚、その中心部が貴嶋を待ち構えている。
骨張った男の指と柔らかな舌が莉央の蜜壺を這うたび、官能的な音が割れ目から漏れている。繰り返される愛撫に次第に吐息を熱くさせる莉央を見て、貴嶋は口元を斜めにして笑った。
『いつまで経っても初々しい反応で可愛いね』
「もう。キングだけが愉《たの》しんで……ずるい」
『知らなかったか? 私は意地が悪いんだ』
「とっくに知ってる。けど私だけが、こんなに恥ずかしい格好で恥ずかしいことをされるのは不公平よ。キングも乱れてくれないと私が愉しくないもの」
身をよじらせた彼女の手で貴嶋が纏う黒いワイシャツがはだけてゆく。シャツが剥がれ、ベルトが抜かれ、最後はスラックスのジッパーが降ろされる。
莉央は躊躇《ためら》いなく貴嶋の下半身に顔を埋め、彼の分身を口で愛撫する。莉央の口内で昂ぶる己を感じつつ、彼は愛しげに目を細め、彼女にされるがままじっとしていた。