早河シリーズ最終幕【人形劇】
ドレスやスーツを脱ぎ散らかして二人はバスルームに移動した。壁の二面がガラス張りになった浴室からは都会の夜景が一望できる。
広くて解放感のあるバスルームに鳴るキスの音と浴槽に注がれる水の音。貴嶋も莉央もアルコールの酔いが回り、触れた身体が熱を持っていた。
湯気の立つ湯船に二人の身体が沈み込む。水面には莉央が散らした赤い薔薇の花弁が舞い、莉央の白い胸元や首筋には貴嶋が散らした赤い花弁が刻印された。
「ねぇ……マリオネットって何のために作られたもの?」
『もちろん人形劇のためさ』
「キングにしては常識的な答えね」
貴嶋の答えに不満げな莉央は浴槽で向かい合う彼の膝の上に乗った。
貴嶋は目線が上になった莉央を見上げ、目の前にある莉央の豊かな膨らみに顔を埋めた。
『じゃあこういう話ならどうかな。誰かを糸で吊って思い通りに操りたいと願う人間の欲望の産物がマリオネットだった、とか』
「それでこそキングらしい答え。面白い」
『誰かを支配したい、独占したいと思う欲望は誰にでも存在するからね』
湯船の中で莉央が浮かせた腰を降ろす。容易く蜜壺に侵入してきた貴嶋の分身の質量に彼女の表情が艶かしく歪んだ。
甘ったるい声を漏らす莉央を見て貴嶋が微笑む。
『まだ余裕そうだね』
「ぁっ……ん。意地悪ね……。そっちも余裕ないくせに……っ」
『じゃあもっと余裕がなくなる話でもしようか』
「なんの話……?」
二人が同時に腰を動かすと薔薇の花弁を浮かべた水面もチャプチャプ揺れる。上下に揺れる莉央の身体が貴嶋と接触し、彼女は貴嶋の首もとに抱き付いた。
『明日……すべてが終わった後、正式に私の妻になってくれないか?』
貴嶋の息も上がっていた。耳元で囁かれたプロポーズに莉央は目を見開いて彼を見た。
「奥様はあのお姫様じゃなくていいの?」
『美月のことも愛しているが妻に迎える存在は莉央しかいないよ』
「勝手な人……」
暗闇の窓のスクリーンに貴嶋と莉央の影が重なって映し出される。
曇り空の東京の夜。濁った色合いの夜空の下には宝石箱に詰められた夜景が輝いていた。
次第に言葉を交わす余裕はなくなって、男と女の欲の解放まであと数分。繋がりを保ったまま立ち上がり、莉央の背中が暗闇の窓につけられた。
キスをしながら刻まれる律動。奥まで突かれた莉央が切なげに啼《な》く。吐息が交ざり、肌が交ざり、体液が交ざり、愛が交ざる。
絶頂に達した貴嶋が莉央の中で果てる時、彼の遺伝子を宿した体液が莉央の内部に注がれた。膣を通って子宮まで注ぎ込まれるドロリとした欲望は、命の種。
貴嶋は結合部からまだ己を引き抜かずに、桃色に色づく莉央のしなやかな裸体を抱き寄せる。熱気のこもる浴室で貴嶋も莉央も汗に濡れていた。
『君が母親になるところは想像つかないよ』
「……私も」
『いつ出来るんだろうね。待ち遠しいな』
「それこそ“神のみぞ知る”よ」
明日、すべてが終わった後に見える景色を思い描いて。
キングとクイーンは愛を誓った。
第四章 END
→第五章 Curtaincall に続く
広くて解放感のあるバスルームに鳴るキスの音と浴槽に注がれる水の音。貴嶋も莉央もアルコールの酔いが回り、触れた身体が熱を持っていた。
湯気の立つ湯船に二人の身体が沈み込む。水面には莉央が散らした赤い薔薇の花弁が舞い、莉央の白い胸元や首筋には貴嶋が散らした赤い花弁が刻印された。
「ねぇ……マリオネットって何のために作られたもの?」
『もちろん人形劇のためさ』
「キングにしては常識的な答えね」
貴嶋の答えに不満げな莉央は浴槽で向かい合う彼の膝の上に乗った。
貴嶋は目線が上になった莉央を見上げ、目の前にある莉央の豊かな膨らみに顔を埋めた。
『じゃあこういう話ならどうかな。誰かを糸で吊って思い通りに操りたいと願う人間の欲望の産物がマリオネットだった、とか』
「それでこそキングらしい答え。面白い」
『誰かを支配したい、独占したいと思う欲望は誰にでも存在するからね』
湯船の中で莉央が浮かせた腰を降ろす。容易く蜜壺に侵入してきた貴嶋の分身の質量に彼女の表情が艶かしく歪んだ。
甘ったるい声を漏らす莉央を見て貴嶋が微笑む。
『まだ余裕そうだね』
「ぁっ……ん。意地悪ね……。そっちも余裕ないくせに……っ」
『じゃあもっと余裕がなくなる話でもしようか』
「なんの話……?」
二人が同時に腰を動かすと薔薇の花弁を浮かべた水面もチャプチャプ揺れる。上下に揺れる莉央の身体が貴嶋と接触し、彼女は貴嶋の首もとに抱き付いた。
『明日……すべてが終わった後、正式に私の妻になってくれないか?』
貴嶋の息も上がっていた。耳元で囁かれたプロポーズに莉央は目を見開いて彼を見た。
「奥様はあのお姫様じゃなくていいの?」
『美月のことも愛しているが妻に迎える存在は莉央しかいないよ』
「勝手な人……」
暗闇の窓のスクリーンに貴嶋と莉央の影が重なって映し出される。
曇り空の東京の夜。濁った色合いの夜空の下には宝石箱に詰められた夜景が輝いていた。
次第に言葉を交わす余裕はなくなって、男と女の欲の解放まであと数分。繋がりを保ったまま立ち上がり、莉央の背中が暗闇の窓につけられた。
キスをしながら刻まれる律動。奥まで突かれた莉央が切なげに啼《な》く。吐息が交ざり、肌が交ざり、体液が交ざり、愛が交ざる。
絶頂に達した貴嶋が莉央の中で果てる時、彼の遺伝子を宿した体液が莉央の内部に注がれた。膣を通って子宮まで注ぎ込まれるドロリとした欲望は、命の種。
貴嶋は結合部からまだ己を引き抜かずに、桃色に色づく莉央のしなやかな裸体を抱き寄せる。熱気のこもる浴室で貴嶋も莉央も汗に濡れていた。
『君が母親になるところは想像つかないよ』
「……私も」
『いつ出来るんだろうね。待ち遠しいな』
「それこそ“神のみぞ知る”よ」
明日、すべてが終わった後に見える景色を思い描いて。
キングとクイーンは愛を誓った。
第四章 END
→第五章 Curtaincall に続く