早河シリーズ最終幕【人形劇】
狙いを外したスコーピオンの放った銃弾は宙を斬って屋上の塀にめり込んだ。
『スコーピオン……いや、元自衛隊特殊部隊所属、田村克典。ライフル射撃の世界大会で優勝したその腕前を何故、暗殺なんかに使った?』
『この国は腐ってる。だから枠組みから変えなきゃならない。キングの下で日本を新しい国に創り変える。そのためにはこの国の絶対的権力を支配する必要があるんだ』
上野に撃たれた右肩を押さえたスコーピオンは息を荒くして呟く。血の滲む手が懐に伸び、彼はもうひとつ隠し持っていた小型の銃をジャケットの内ポケットから引き抜いた。
『お前が国家を憎悪する理由は家族を殺されたことが原因だろ? 国家は国にとって脅威となる存在の抹殺をお前にやらせていた』
上野の銃もまだスコーピオンに照準が合わさっていた。
『そう。俺が世界大会で優勝したあの時から……。科学者、警察上層部、政治家……国の命令で何人殺したかわからない。でもそれが命令だった。俺は職務を全うしていると思っていた。……94年のあの日までは』
田村克典が自衛隊を除隊した1994年に田村の妻と当時5歳の娘が死んでいる。
『国家は信じられない命令を俺に下した。子どもを殺せと、命令してきたんだ。俺の標的となったのはまだ11歳の少年だった。少年の父親はある宗教団体の教祖。マッドサイエンティストの気もあった教祖は、海外のテロリスト集団とも関係が深かった。国の目的は宗教団体壊滅と教祖の一族を根絶やしにすること。殺しのリストには団体幹部の子どもも多く含まれていた』
虚しく悲しい独白だった。この国が国家維持の名目でどれほどの人間の命を大義名分を掲げて奪ってきたのか。上野はやるせない思いに駆られた。
『俺は……少年を殺せなかった。実行しようとしても、つぐみの顔が浮かんで……。こんな何人も人殺しをしている俺を、パパと呼んでくれた娘の顔がよぎってどうしても殺せなかった。任務を遂行できなかった俺に下された制裁は家族の命……。俺は国に家族を人質に取られていた事をわかっていなかったんだ。俺が命令に背いたせいで妻と娘は国に殺された!』
『よせっ!』
銃弾が地面に数発撃ち込まれた。上野達が銃声に怯んだ隙に、肩から血を滴らせたスコーピオンは鉄柵の手すりを軽々飛び越えた。
柵の向こうの足場は子どもの足の幅程度しかない。スコーピオンは手すりを掴む手とは反対側の手でこめかみに銃を突きつけて笑った。
『キングが俺の前に現れた時、あの方こそ真の神だと思った。俺はキングに救われた。キングならばこの腐りきった国、腐りきった世界を創り変えられる。すべては天地創造のために……』
トリガーが引かれ、鳴り響く銃声と上野の叫び声が重なる。最期の瞬間、彼は笑いながら地上に落下した。
『スコーピオン……いや、元自衛隊特殊部隊所属、田村克典。ライフル射撃の世界大会で優勝したその腕前を何故、暗殺なんかに使った?』
『この国は腐ってる。だから枠組みから変えなきゃならない。キングの下で日本を新しい国に創り変える。そのためにはこの国の絶対的権力を支配する必要があるんだ』
上野に撃たれた右肩を押さえたスコーピオンは息を荒くして呟く。血の滲む手が懐に伸び、彼はもうひとつ隠し持っていた小型の銃をジャケットの内ポケットから引き抜いた。
『お前が国家を憎悪する理由は家族を殺されたことが原因だろ? 国家は国にとって脅威となる存在の抹殺をお前にやらせていた』
上野の銃もまだスコーピオンに照準が合わさっていた。
『そう。俺が世界大会で優勝したあの時から……。科学者、警察上層部、政治家……国の命令で何人殺したかわからない。でもそれが命令だった。俺は職務を全うしていると思っていた。……94年のあの日までは』
田村克典が自衛隊を除隊した1994年に田村の妻と当時5歳の娘が死んでいる。
『国家は信じられない命令を俺に下した。子どもを殺せと、命令してきたんだ。俺の標的となったのはまだ11歳の少年だった。少年の父親はある宗教団体の教祖。マッドサイエンティストの気もあった教祖は、海外のテロリスト集団とも関係が深かった。国の目的は宗教団体壊滅と教祖の一族を根絶やしにすること。殺しのリストには団体幹部の子どもも多く含まれていた』
虚しく悲しい独白だった。この国が国家維持の名目でどれほどの人間の命を大義名分を掲げて奪ってきたのか。上野はやるせない思いに駆られた。
『俺は……少年を殺せなかった。実行しようとしても、つぐみの顔が浮かんで……。こんな何人も人殺しをしている俺を、パパと呼んでくれた娘の顔がよぎってどうしても殺せなかった。任務を遂行できなかった俺に下された制裁は家族の命……。俺は国に家族を人質に取られていた事をわかっていなかったんだ。俺が命令に背いたせいで妻と娘は国に殺された!』
『よせっ!』
銃弾が地面に数発撃ち込まれた。上野達が銃声に怯んだ隙に、肩から血を滴らせたスコーピオンは鉄柵の手すりを軽々飛び越えた。
柵の向こうの足場は子どもの足の幅程度しかない。スコーピオンは手すりを掴む手とは反対側の手でこめかみに銃を突きつけて笑った。
『キングが俺の前に現れた時、あの方こそ真の神だと思った。俺はキングに救われた。キングならばこの腐りきった国、腐りきった世界を創り変えられる。すべては天地創造のために……』
トリガーが引かれ、鳴り響く銃声と上野の叫び声が重なる。最期の瞬間、彼は笑いながら地上に落下した。