早河シリーズ最終幕【人形劇】
『父と一緒にしないでくれるかな。君がどこで14年前の父の犯罪計画を知ったのかは大方察しはつくが、私は父の時代以上のカオスを創り上げた。父は神にはなれなかった。でも私は違う』
貴嶋は右手に銃を、左手には小型のリモコンを持っている。あのリモコンが警視庁と警察庁、矢野がいる城南総合病院に仕掛けた爆弾の起爆装置だ。
『父は最後にミスを犯した。虎視眈々と反逆の機会を窺っていた私に気付かず、父は私に殺された。それが辰巳佑吾が神になれなかった敗因さ』
貴嶋の饒舌なモノローグに早河はかぶりを振る。
『お前も神にはなれねぇよ……』
早河の独り言と重なってホールに銃声が轟いた。呻き声をあげた貴嶋の身体が揺れ、ステージに赤い血が滴り落ちる。
さらにもう一発、貴嶋の太ももに銃弾が撃ち込まれ、貴嶋は起爆装置を手放した左手で太ももを押さえてうずくまった。
貴嶋が撃たれた瞬間も早河は冷静だった。彼は舞台の下手《しもて》を見る。貴嶋の右肩と太ももを貫いた銃弾は下手側から放たれていた。……打ち合わせ通りに。
『……なるほど』
すべてを理解した貴嶋は血が付着した自身の手のひらを見て高笑いした。やがて貴嶋の視線も下手側に向けられる。
『内通者はお前だったか。……莉央』
下手の舞台袖から拳銃を構えた寺沢莉央が現れた。平然と澄ます莉央は壇上から客席に繋がる階段を降り、通路に立つ早河の隣に並んだ。
右肩と太ももから流れ出る血が貴嶋の足元を赤黒く染める。貴嶋はシャツの袖を引きちぎり、止血ポイントに巻いた。
『やはり、と言うべきかな。カオスの情報を漏らしている内通者が莉央ではないかと薄々予感はしていたよ』
「わざと私を泳がせていたのよね。スパイダーを使って私のパソコンや携帯をハッキングさせていたでしょう?」
『しかしスパイダーもお前に巧く言いくるめられてしまったようでね。莉央に反逆の疑いはないとスパイダーは報告してきたよ』
早河は四方に視線を動かして自分達のいる地点を確認した。早河と莉央がいる場所は縦に四つ並ぶ通路の左から二番目、J列23番と24番の間の通路。
ここから一番近い出入口は早河の左手方向にある1番扉と斜め方向の2番扉。
早河が動きのシミュレーションを重ねる間も、莉央は貴嶋から銃口をそらさない。
「スパイダーが私の裏切りに気付いてもキングに報告しなかったのは、スパイダーも気付いたからなのよ」
『気付いた? 何を?』
撃たれた痛みに時折顔をしかめる貴嶋は、腰から抜いたベルトで太ももの止血を施した。莉央に銃口を向けられていても彼は飄々としている。
「貴方が辰巳佑吾のマリオネットだってことに」
それまで一貫して飄々とした態度を崩さなかった貴嶋の表情が初めて歪んだ。
貴嶋は右手に銃を、左手には小型のリモコンを持っている。あのリモコンが警視庁と警察庁、矢野がいる城南総合病院に仕掛けた爆弾の起爆装置だ。
『父は最後にミスを犯した。虎視眈々と反逆の機会を窺っていた私に気付かず、父は私に殺された。それが辰巳佑吾が神になれなかった敗因さ』
貴嶋の饒舌なモノローグに早河はかぶりを振る。
『お前も神にはなれねぇよ……』
早河の独り言と重なってホールに銃声が轟いた。呻き声をあげた貴嶋の身体が揺れ、ステージに赤い血が滴り落ちる。
さらにもう一発、貴嶋の太ももに銃弾が撃ち込まれ、貴嶋は起爆装置を手放した左手で太ももを押さえてうずくまった。
貴嶋が撃たれた瞬間も早河は冷静だった。彼は舞台の下手《しもて》を見る。貴嶋の右肩と太ももを貫いた銃弾は下手側から放たれていた。……打ち合わせ通りに。
『……なるほど』
すべてを理解した貴嶋は血が付着した自身の手のひらを見て高笑いした。やがて貴嶋の視線も下手側に向けられる。
『内通者はお前だったか。……莉央』
下手の舞台袖から拳銃を構えた寺沢莉央が現れた。平然と澄ます莉央は壇上から客席に繋がる階段を降り、通路に立つ早河の隣に並んだ。
右肩と太ももから流れ出る血が貴嶋の足元を赤黒く染める。貴嶋はシャツの袖を引きちぎり、止血ポイントに巻いた。
『やはり、と言うべきかな。カオスの情報を漏らしている内通者が莉央ではないかと薄々予感はしていたよ』
「わざと私を泳がせていたのよね。スパイダーを使って私のパソコンや携帯をハッキングさせていたでしょう?」
『しかしスパイダーもお前に巧く言いくるめられてしまったようでね。莉央に反逆の疑いはないとスパイダーは報告してきたよ』
早河は四方に視線を動かして自分達のいる地点を確認した。早河と莉央がいる場所は縦に四つ並ぶ通路の左から二番目、J列23番と24番の間の通路。
ここから一番近い出入口は早河の左手方向にある1番扉と斜め方向の2番扉。
早河が動きのシミュレーションを重ねる間も、莉央は貴嶋から銃口をそらさない。
「スパイダーが私の裏切りに気付いてもキングに報告しなかったのは、スパイダーも気付いたからなのよ」
『気付いた? 何を?』
撃たれた痛みに時折顔をしかめる貴嶋は、腰から抜いたベルトで太ももの止血を施した。莉央に銃口を向けられていても彼は飄々としている。
「貴方が辰巳佑吾のマリオネットだってことに」
それまで一貫して飄々とした態度を崩さなかった貴嶋の表情が初めて歪んだ。